日本の「産業スパイ対策」がどうにも甘すぎる事情 経済安保が重要な中、いいようにやられている
セキュリティークリアランスとは、日本でいえば一部の国家公務員に課される「秘密取扱者適格性確認」のことで、欧米では民間でも一般的だ。海外企業と共同開発を進める一部の日本企業は、民間にもこの制度を導入するよう政府に働きかけている。だが、借金の状況や親族の個人情報などを詳細に記入する「身上明細書」が日本弁護士連合会に問題視されるなど、導入は依然ハードルが高い。
政府の側でスパイ対策に力が入るのは公安調査庁だ。2020年4月に内閣官房の国家安全保障局に経済班が設置されたが、経済安保に特化して情報収集・分析している官庁はない。前出の小谷教授は「経産省はやや腰が重いように見えるので、人員の余力、分析能力から公安調査庁が適任ではないか」と話す。
専門チーム発足で腕をまくる公安調査庁
かつて公安調査庁は過激派の衰退やオウム真理教事件の終結とともに「法務省の盲腸」ともいわれたが、2021年2月に長官・次長直轄の「経済安全保障関連調査プロジェクトチーム」を発足。海外企業の土地買収や投資を調査する調査一部、国内外のスパイを監視する調査第二部の調査官を中心に20人を集結させ、活路を見いだす。2021年度予算では、経済安保に関連する情報収集・分析機能強化の一環で、70人以上の増員を行う見通しだ。
6月7日、全国局長・事務所長会議で和田雅樹長官は「懸念国はわが国が保有する機微な技術、データ、製品などの獲得に向けた動きを活発化させている。当庁には技術流出の実態解明や未然防止に資する情報の収集、分析が強く求められている」と語っている。
プロジェクトチームでは東京大学先端科学技術研究センターと連携を深め、先端技術の情報収集や企業への啓発活動を進めている。「専用のホームページ経由、また企業訪問の際に、スパイ行為をうかがわせる情報の提供もある」(同庁幹部)という。
課題は専門知識を持った人材の確保だ。今年4月にマイナビで調査官を公募したところ、約1400人のプレエントリーがあったが、同幹部は「国家公務員の給与規定が壁となり、理想に近い人材ほど待遇面で採用が難しい」と漏らす。
人材のあり方、さらにはスパイ防止法の制定やファイブアイズ(米英など5カ国の諜報同盟)への参加などを含め、国民の支持を得つつ法の整備を進めていく必要がありそうだ。
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