捕食者がいなくなると、生態系は地獄絵に 『捕食者なき世界』と『ねずみに支配された島』

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ヒト、そして、ヒトと共に猟犬がやってきた。しかし、これら比較的大型の『捕食者』たちは、『天国』に住む鳥たちを絶滅に追いやるほどの威力はなかった。より恐ろしいのは、ヒトといっしょにやってきたネズミだ。ネズミはどのような隙間にもはいりこみ、鳥の卵やヒナを食べ尽くしてしまう上、繁殖能力もすさまじい。

『ねずみに支配された島』の主役のひとつは、鳥のカカポだ。奇妙とも愛くるしいともいえるカカポは、ヒトやネズミの侵攻をうけて、いまや絶滅の危機にさらされている。この鳥の保護に携わった男にちなんだ名前をうけついだ老カカポ、ヘンリーを中心に語られていく。

この本のもうひとつの大きなテーマは、アリューシャン列島の鳥と、その新参捕食者であるネズミだ。その昔、アリューシャン列島では、水平線まで延々と続く鳥の群れを見ることができたという。しかし、太平洋戦争の戦場となった際、兵士とともにネズミたちが上陸し、海鳥たちは食べ尽くされていった。

殺鼠剤を散布したが・・・

ここでも人間は生態系の回復を試みる。今度は、大量の殺鼠剤を散布し、ネズミを皆殺しにしようというのだ。計画は挙行された。天候に恵まれ、予定以上に順調に殲滅作戦は進行した。かに見えた。しかし、好事魔多し。期待とはうらはらの結果がもたらされてしまった。さて、いったい何がおきたのだろう。

いやはや、人間というのは勝手なものだ。捕食者を絶滅させ生態系を破壊してしまっては、捕食者を再導入して元に戻そうとする。逆に、図らずも捕食者を持ち込んで生態系を破壊してしまっては、その捕食者を根絶やしにしようとする。まるでエンドレスゲームだ。

この二冊、人間社会の寓話として読んでみることもできる。『捕食者』のような人には、直接いためつけられるだけではなく、その恐怖も大きな問題だ。しかし、邪魔だからといって、その人を追い出したら何がおきるだろう。あるいは、逆に、それまで見たこともなかった『捕食者』のような人が急にやってきたらどうなるだろう。いずれも地獄絵図をもたらす可能性が高い。

この本が教えるところによると、小さな『社会』ほど、こういったことの影響は大きく、もとに戻すのは困難であるという。想像したくもないだろうが、万が一、そのような状況がおきたとき、自分が属する集団において何が生じそうか、シミュレーションとして読んでみるのもおもしろい。

仲野 徹 大阪大学大学院・生命機能研究科教授

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なかの とおる / Toru Nakano

1957年、大阪市旭区千林生まれ。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。京都大学医学部講師などを経て、大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。HONZレビュアー。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。著書に『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社、2017年)、『からだと病気のしくみ講義』(NHK出版、2019年)、『みんなに話したくなる感染症のはなし』(河出書房新社、2020年)などがある。

 

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