Tシャツのせいで「自殺する農民」がいる現実 インド綿農家の有機農法転換を支援した軌跡

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うーん、おおよそつねにつらいからな(笑)。物事、最悪こうすればいいってあるでしょ。会社が嫌なら辞めたらいいし、恋人がキツかったら別れたらいいし、お客ともめたら最悪謝る。けどこのプロジェクトで、もう一度農薬使ってくれ、学校やめてまた働いてくれ、なんて言うのはいちばんつらい。自殺させるなど耐えがたい。後戻りだけはさせられない、そんな覚悟でその時々考え、1つひとつプロセスを踏んできた。

貧困撲滅といって1回おにぎり配るのは簡単です。毎日継続させるのがしんどい。最近「サステイナブルが大事」って言う人増えたけど、「サステイナブルしたことあるん?」と思うわけです。「寄付したことあるよ」「続けたん? それ」って。

「基金の対象」を見極めるのが難しい

──有機栽培以外にもいろんな開発ニーズが出てきているとか。

どこまでを基金の対象とするか、すごく難しい。無職の女性にミシンを買ってほしい、農閑期用に養鶏場を造りたいという話に対し、支援の範囲内とするかどうか。養鶏場に10万円使ったら、その10万円は有機農法に使えなくなる。20キロ先の学校へ通わせるため自転車が必要、橋を架けてほしい、学校つくれ、先生雇ってくれ等々話は尽きない。

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もちろんできる限り取り組んできたけど、それは無理って件もある。インドは会社法改正でCSR(企業の社会的責任)活動への支出が義務づけられたので、企業に相談に行くのですが、なかなか資金を回してもらえない。

プロジェクトの商品点数、基金総額、有機農法へ転換した農家数、復学や奨学金で進学した児童数、すべて着実に伸びてきました。自殺もだいぶなくなりました。けど、頭に描いた理想的な循環が回り始めたことで、新たに顕在化した課題を見せつけられる。その連鎖をどこまでいつまで、受け止め続けられるかが課題です。

──どこかで線引きが必要に?

どうなんだろうな。われわれのような活動を、企業がうまくコラボレーションで使ってくれたら、と思います。10万キロ走った車やタイヤをくれるのでもいいし、PBPと何かすることで「私たちがインドの農業を改善します」って手柄にしてくださって全然いいんです。それで農家が助かるんで。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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