あのビル・ゲイツが「トイレ革命」に挑戦する訳 2億ドルを投じて新しい汚水処理装置を開発
理由は水と排泄物の問題だ。トイレの環境が整っていない地域では、排泄物を流す川の水がそのまま飲用水にされている。しかも、その川で子どもたちは水遊びまでしている。健康でいられるはずがない。
汲み取り式トイレがある村でも、バキュームカーや下水処理施設はない。便器のまわりは汚れ放題。そこで排泄をする人はほとんどいない。屋外のほうがまだましなのだ。『天才の頭の中』では、屎尿で汚染された川で遊ぶ子どもたちや汚れたままの便器の様子をありのまま映している。
「僕のいる世界では下痢で子どもを失う親など、1人たりとも会ったことがない。そこで不思議に思った。世界は大量にある資源を使って撲滅策を講じているのか?」
パソコン寄贈だけでは効果が実感できない
ビル・ゲイツは疑問を投げかける。社会貢献として、ビル・ゲイツはマイクロソフトを通じてアフリカに多くのパソコンを寄贈していた。しかし、その効果がなかなか実感できない。
そんないきさつで、ビルと妻のメリンダ・ゲイツが運営する慈善基金団体、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は約2億ドルを投じて、途上国の命を救うためのトイレと下水設備の開発を始めたのだ。
では、アフリカに先進国と同じような下水道や下水処理施設をつくればいいのか――。
ビル・ゲイツは思案する。それは、現実的ではない。数百億ドルものコストがかかってしまい、開発途上国には普及しない。そこで、ワシントン州セドロウーリーにあるジャニキ社のCEO(最高経営責任者)で機械工学士のピーター・ジャニキを訪ねる。
ジャニキ社は軍事用の機密部品をつくっている会社。そこに開発途上国を救うための汚水処理装置の開発を依頼した。ピーター・ジャニキは、最初はとまどったが、ビル・ゲイツの熱意に応え、装置の開発を始める。