インドから飛び出した「28万円カー」の威力

インドパワー

第二が巨大需要をにらんだ先行投資である。タタは開発に4年、設備に170億ルピー(約476億円)を投入。計画では08年に10万台、09年に30万台、12~13年には100万台を生産する。一方で推定される採算ラインは「35万~40万台ではないか」(自動車アナリスト)。たとえ当初は赤字でも、拡大する市場の初級ユーザをつかめば、がっちりと採算を確保できる算段のようだ。

そして第三が徹底した外注である。車体外板のプレス工程や溶接工程の大部分を外注化。これらは通常の自動車メーカーでは内製化する工程だ。さらに「内製することの多いエンジン部品でも外注に出した」(久保鉄男・『アジア自動車調査月報』編集長)。そして自らは可能なかぎり、車体やエンジンの最終組み立てに徹する。だから「ナノ」用に、費用のかさむプレス機や溶接用ロボットを持つ必要がない。

タタを陰で支える日本のサブライヤー

そのうえで、タタはサプライヤー(部品会社)について「セカンドソーシング」と呼ぶ制度を採用する。一つの部品でまず1番手のサプライヤーを決め、"補欠"のような形で2番手のサプライヤーを待機させる。取引が始まっても要求に応えられなければ、いつでも"差し替え"可能という。日本メーカーならばコンペで複数に発注することはあるが、安定調達の面から頻繁にサプライヤーを交代することはない。

サプライヤーを1カ所に集めるのも特徴的。西ベンガル州シングールにあるタタの工場では、隣接するサプライヤーパークに現地や外資系の部品工場が立ち並ぶ。車両メーカーとサプライヤーとを近づけ、ジャストインタイムで運ぶことで、物流費をギリギリまで絞ることができる。

サプライヤーパークには最大手の独ボッシュのほか、日本のスタンレー電気などが名を連ねている。実は「ナノ」の中身を見ると、日本製部品も多い。トヨタ系ならデンソーがワイパー、ジェイテクトがステアリング、東海理化がスイッチ、といった具合いだ。NOKや矢崎総業などの独立系も供給する。先進国の自動車市場が細る中、「今後伸ばしていけるのは新興国しかない」と、大手日系サプライヤー幹部は語る。

インド国内で、タタの影響力は群を抜く。超ワンマンのラタン会長は政治との関係も深い。インドでは自動車購入における物品税の比重が大きいため、06年に小型車「Al」「A2」区分の税率が24%から16%へ下がり、08年度予算案では12%への再引き下げが盛られたばかり。そのうえ、「『ナノ』を売ろうとさらに下の税区分を独立させて、一層の引き下げを図るのでは」(業界筋)との見方がもっぱらなのだ。

超低価格車の旋風は、これからブラジルやアフリカをはじめ、途上国まで波及するかもしれない。自動車の歴史は今、大転換期を迎えようとしている。

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