『人間に格はない』を書いた玄田有史氏(東京大学社会科学研究所教授)に聞く
--正規も非正規もですね。
非正社員は正社員になれないといわれることが多い。もともと統計をよく見ると、年間40万人が非正社員から正社員に転換を遂げているし、転職ではなく企業内で昇進するのを含めると、実際には非正社員から正社員になる数は少なくない。
また、非正社員であっても2年以上、働き続けている経験を持っている人のほうが、多く正社員に転職を遂げているという事実もある。雇うほうからすれば、ある一定期間、我慢強く働いたという経験を持っていることが、経済学で言うシグナルになって転職を実現する。非正社員で同じ会社に勤め続けている人でも実際には給与が上がっていく経験もあり、現実はかなり変わりつつある。
そう考えると、今は正社員、非正社員にかかわらず、ある程度安定して一定期間働ける環境作りを後押しする社会が大事だ。この主張はある部分で師匠と対立している。
--まず、エビデンスをしっかり把握せよということですか。
先生から、イメージだけではなくて、しっかりしたエビデンスを求め、そのうえでそれなりのロジックを用いて考えよと教育された。
こういう複雑性の大きい時代では、異常事態が起こったときに柔軟対応できるように、非正社員を採用したい。ただ同時に、将来の人手不足などを考えると、いい非正社員には長く働いてほしい。
非正社員のほうも、いちばん強く希望するのは、安定した働き口だ。安定して働きながら、そこでの経験のうえで、転職したりプロになったりする働き方を望んでいる。そう考えると、非正社員が中長期的に働ける環境を作ることにも一定の経済合理性がある。