トヨタ新型「MIRAI」に込めた販売10倍増の成算 「脱エンジン」が追い風も、水素インフラに課題

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普及への最大の課題はインフラの整備だ。豊田章男社長が「(燃料水素の充填)ステーションとFCVの関係は花とミツバチ」と例えるように、どちらが先かではなく、両者のバランスが取れて初めて共存し、ともに普及できる。

しかし、国内を例に取っても、ステーションは現状135カ所しかない。「今のインフラ状態では、一般消費者はFCVを買おうとせず、新型ミライも(初代と同じく年間で)結局3000台程度しか売れない状態になってしまう」とトヨタ幹部は悪循環を打破する必要性を説く。

水素ステーション整備のネックとなっているのは、固定型で約5億円もかかる高額の建設費だ。水素用の高圧ガスタンクやパイプには特殊な金属を使う必要もあり、ガソリンスタンドの5倍以上の建設費がかかる。運営費も年間約3000万円必要なため、補助金なしでは採算は厳しい。

水素ステーションを展開する岩谷産業の牧野明次会長兼CEOは「規制緩和や技術革新で建設費を現状の半分以下の2億円にまで下げられれば、インフラ普及が早まる」と話し、既存のガソリンスタンドへの併設をしやすくするなど保安基準の緩和を国に訴える。 

乗用車以外の用途も模索

また、水素燃料の需要自体が増えない限り、インフラの整備は進まない。そこでトヨタはミライのフルモデルチェンジに際して、乗用車以外にも転用可能な汎用性の高いFCシステムを新規に開発。トラックなどの商用車のほか、鉄道、船舶、産業用発電機への転用も可能だという。自社開発したFCシステムをさまざまな用途に提供することで水素の需要を生み出し、インフラ整備を促す作戦だ。

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東京都の小池百合子知事は12月8日、都内の新車販売について2030年までにガソリンエンジンだけの車をなくす方針を表明した。菅義偉首相が10月末に表明した2050年の「カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)」に向けた自治体独自の動きだ。世界各国で「脱エンジン車」の動きが加速しており、いよいよ日本政府も年内に計画案を策定する。

社会の関心を水素に向かわせることができるか。絶妙なタイミングで登場した新型ミライは、水素社会実現への重責も担う。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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