朝日新聞「創業来の大赤字」のとてつもない難題 構造改革を難しくさせている3つの要因
次に2番目の理由をみたいと思います。朝日新聞社が公表している財務データを見ると、朝日新聞社という企業は新聞社でありながら、不動産事業で安定した利益を上げていることがわかります。
具体的に2020年3月期の決算データでは連結従業員数6174人が関わるメディア・コンテンツ事業(新聞はこの中に含まれます)の売上は3345億円、セグメント利益は19億円となっています。
一方で不動産事業は売上高385億円、セグメント利益は68億円です。コロナでオフィス需要が今後どうなるのか不安な昨今ではありますが、一般論でいえば朝日新聞社が行っているオフィスビルの賃貸事業は長期安定ビジネスです。構造的にはメディア・コンテンツ事業の長期凋落に対して、不動産事業の安定利益が下支えしていることになります。
そしてこれは経営学的には暴論なのですが、社内論理的には「メディア事業が68億円の赤字になるまではうちの会社の経営は耐えられる」という誤った認識が広まりやすい。この点で、不動産事業で莫大な安定収入が見込めるという構造は朝日新聞社の改革を進めにくくするのです。
民間企業でありながら社会の公器である難しさ
さて3番目の理由が「新聞社は民間企業でありながら社会の公器である」という認識です。業界が縮小して経営者は大きな危機感を持つ環境下でも、社員である「記者」は「そんなことはジャーナリストとしての矜持の前にはたいした問題ではない」という意識を持ちがちです。
これはかつて日本航空の改革が進まなかったことと同じです。企業である前に安全運航を手掛ける公器であるがゆえに、経営環境が悪くなり赤字が嵩んだとしても現場はコストカットに協力する気を起こしにくいものです。本当はそうではないのですが、経営がコストカットというと「じゃあ安全をないがしろにするのか?」という反論が起き、結局「これまでとやり方を変えないことがいちばんいいのだ」という話に議論が落ち着きがちです。
このように3つの構造要因、つまり死の谷にあって業界が沈むと真っ先に業績が悪化する構造下で、不動産事業という安定した収益補填源があり、かつ公器であるがゆえに記者たち社員の協力が得にくいという構造によって、朝日新聞社はどうしても経営改革が進みにくい、言い換えると沈みやすい企業なのです。
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