「英語工場の看板」を取り替えよう [対談]大西泰斗×斉藤淳の英語勉強法(5)

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「ユーザーフレンドリーな英文法」へのイノベーション

斉藤:「ほかの業界」に比べ、英語業界は何が特殊なのでしょうか?

大西:目的に則してスクラップアンドビルドをつねに行うダイナミズムが欠けている点です。そして、その前段にある「この学習内容は本当に必要なのか」という懐疑的なまなざしです。

40年前の部品をまだ使っている自動車会社がありますか? 部品の物性、精度、何もかもが変わっています。それが他業界の標準です。しかし英語業界では――たとえば――関係代名詞という文法項目が本当に必要なのか、もっと効率的な学び方はないのか、そうした精査が行われたことはありません。

関係代名詞と呼ばれる形は、名詞の後ろに文を並べ説明しているだけの形です。たまたま文内に名詞相当のGAP(空所)があり、それが先行詞(修飾される名詞)に組み合わされているだけで、一般の修飾となんら異なることはありません。名詞と文の結び付きについて正確さを期したければthat、さらに厳密に組み上げたければwhoとかwhichを適宜用いる。

その程度の内容に、意味のわからない名前(少なくとも学習者にとっては)をつけ、特別な修飾形式として扱うことに意味があるのでしょうか。もちろんあってもかまいませんよ――しかしそれはあくまで検討して判断した結果でなくてはなりません。精査の俎上に載せることが必要なのです。

文法に関してさらに言えば、他業界に比べ著しく見劣りしているのが、「ユーザーフレンドリーなシステムの構築」です。文法は目には見えませんが、私たちが操らなければならないパソコンや炊飯器と同じ、システムです。

すぐれたシステムは、パッと見ればどう使うのかがわかる。最小の努力で使い方を身に付けられるという性質をもっています――いわゆるMMI(マン・マシン・インターフェース)。人が手にする道具・システムに必要なのはこの観点なのです。40年前はパンチカードで対話していたのに、それがキーボードになって、マウスになって、さらに画面にタッチになって……と、コンピュータ業界は長足の進歩を遂げてきました。そしてコンピュータは多くの人にとって有用な道具となったのです。

ひるがえって文法はどうでしょう。文法書を読んでも、難解な文法用語や意味不明な文法細則に阻まれて、システムを駆動することができません。MMIの専門家が裸足で逃げ出すような記述にあふれています。

斉藤:必要なイノベーションが起こってこなかったんでしょうね。英語教育業界っていろんな業者もいるし、市場競争が活発なように見えますけれど、その内実はスカスカだったと。

大西:イノベーションを起こすポテンシャルがないわけではないでしょう。人材も豊富です。訳読中心の教育には、その必要がなかったというだけのこと。でも、すでに目標が変わったのです。ここからみんなで知恵を持ち寄ってイノベーションを起こしていけばいい。そこでキープレーヤーとなるのは――英語教師はもちろんですが――斉藤先生のような他業種のバックグラウンドをお持ちの方々だと思います。新しい風をこれからも吹き込んでください。期待しています。

斉藤:いえいえ(笑)。いろいろとお考えを共有できてうれしかったです。本日はありがとうございました!

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斉藤 淳 J Prep斉藤塾代表

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中学・高校生向け英語塾「J Prep斉藤塾」代表。元イェール大学助教授。元衆議院議員。1969年山形県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。イェール大学助教授、高麗大学客員教授などを歴任。
2012年、アメリカより帰国し、東京・自由が丘にて英語塾を起業。現在自由が丘、渋谷、山形・酒田にて塾を展開。「自由に生きるための学問」を理念に、第二言語習得法の知見を最大限に活かした効率的なカリキュラムで、生徒たちの英語力を高め続けている。
研究者としての専門分野は日本政治・比較政治経済学。主著『自民党長期政権の政治経済学』で、第54回日経・経済図書文化賞などを受賞。

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