コロナ閉店「退去費用・違約金」のリアルな中身 一般的に退店3〜6カ月前の告知が必要だが…

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路面店の1店舗は、同じ建物に大家さんが住む「住宅+店舗」の物件でした。 お店をオープンしたとき、大家さんのおばあちゃんとはよく会話をしていました。従業員に店舗を任せてからも、従業員がおばあちゃんとコミュニケーションを取ってくれたおかげで、解約の申し入れをしたときには「今まで楽しく話をしてくれてありがとう」と感謝の言葉をもらいました。

「お店のにぎわいが好きだったから、なくなるのは寂しいね」。最後にそう言われたときは、本当に胸が詰まりました。おばあちゃんは店舗前の掃除や共用部分の手入れを毎日欠かさずやっていました。それだけ、お店を大事に思ってくれたのだと思います。高齢のおばあちゃんだっただけに、生きがいを奪ってしまったような複雑な気持ちを今でも思い出します。

取引先には誠実に向き合うことが大切

問題は商業施設の解約でした。3店舗のうち1店舗は、契約期間の関係で違約金が発生しませんでしたが、残りの2店舗は契約期間がまだまだ残っていました。このまま解約を申し入れた場合、違約金だけで2店舗合わせて600万円程度、さらに原状回復費用も含めれば、総額900万〜1000万円ほどの費用がかかる見込みでした。このまま全額負担すれば、最終的にほとんどお金が残らないまま会社を解散することになります。

私は、素直に全額負担することは厳しいこと、解約の方法について調整ができないか、営業の担当者に申し入れをしました。すると、その担当者は私の主張を理解してくださっただけでなく、「これからもっと大変になるだろうから、最大限できることをやりますよ」とさえ言ってくれたのです。どちらの営業担当者も会社に対して交渉してくださり、結果として、違約金は敷金での相殺、看板取り外しや撤去費用の実費負担のみ、原状回復は不要で解約の合意をしてくれました。心が震えるとはまさにこのことです。

今までビジネスパートナーだったとはいえ、これから退去する人に対して、最大限の対応をしてくださったのです。さくら野百貨店もBRANCH仙台を運営する大和リースも、新型コロナウイルスの影響をかなり受けていました。私が逆の立場だったら同じことができるかどうか。自分が厳しい状況であれば、退去する人に対して、回収できるものは回収しようとするのではないかと思います。

『全店舗閉店して会社を清算することにしました。』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

最後、店を明け渡すときには、どちらの営業の方も「また出店の機会があったらよろしくお願いします」とも言ってくれました。このご恩は一生忘れません。今、改めて思い出してみると、出店先と良好な関係を築いておいてよかったことは明らかです。仮に、出店者として横柄な態度で接していれば、解約の申し入れも厳しい結果になっていたでしょう。誰しも業績がいいときは退店することなど考えないものです。

しかし、どのようなビジネスも浮き沈みがあり、大変なときほどお互いに支え合っていかなければならないと思います。つねに退店することを考えておくべきとは思いませんが、取引先には誠実に向き合うことが大切だと感じています。何より、普段から従業員が商業施設側と良好な関係を築いてくれたおかげであり、改めて従業員には感謝の気持ちがこみ上げてきます。

福井 寿和 株式会社グラバー代表取締役

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ふくい としかず / Toshikazu Fukui

1987年生まれ、青森県出身。新潟大学経済学部卒業後、日本NCR株式会社に入社。その後、株式会社マネジメントソリューションズでPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を経験後、2014年に地元青森で合同会社イロモアを創業。コワーキングスペースの経営からスタートし、2015年に「CAFE 202 青森店」をオープン。2017年に株式会社イロモアの代表取締役に就任。
事業が軌道に乗り始めた矢先に新型コロナウイルスが襲来。「全店舗閉店、事業清算」という苦渋の決断を下す。その背景を綴ったブログは140万PV超えを記録した。
2020年8月、株式会社グラバーを設立。「廃業支援」など倒産の経験を生かした事業をスタート。

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