山梨県、「格安賃料」で富士急に巨額賠償請求も 知事の是正指示で、県有地めぐる訴訟に新展開

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これに対し、県は賃料が不当に低いという原告の主張には理由がないなどと反論。訴訟における補助参加人である富士急も県と歩調を合わせてきた。

ところが今夏になって県は姿勢を大きく転換させた。県の訴訟代理人を務める3人の弁護士が7月31日付で辞任するとともに、新たに別の弁護士が就任。8月12日付の甲府地裁への上申書において、「透明性の確保と県民に対する説明責任の徹底が特に求められる」と述べたうえで、開発前の素地価格を賃料算定の基礎とすべきとしていた従来の主張を撤回。不動産鑑定評価を実施した。

揺らぐ富士急のビジネス

今回実施された鑑定評価によれば、現在の利用状況に基づくと、別荘地やゴルフ場などに使用されている県有地(約440ヘクタール)の賃料は年額20億1157万円(2017年4月1日時点の価格)が適正であるとされた。これに対し、2017年3月末に県と富士急との間で締結された契約書では2017年の賃料はその6分の1、3億2530万円にとどまっている。

山梨県の長崎幸太郎知事は県有林の富士急向け賃貸条件の見直しに動いた(撮影:今祥雄)

今後、県では「安すぎる賃料が設定された経緯や歴代知事の判断の是非について調査を進めるとともに、過失があったと認定された場合には歴代知事への損害賠償請求の可能性もある」(県関係者)という。加えて「富士急にも損害賠償や不当利得の返還を求めていく方向だ」(同)。その金額は総額で150億円にのぼる可能性があるという。

一方、富士急は東洋経済の取材に対し、「山梨県知事がこれまでの県の主張を撤回し、従来の県の基準とは明らかに異なる基準で鑑定が行われたことは無責任であると言わざるを得ない」と主張。ほかの民間企業へ貸し付けている県有地の賃料水準を示したうえで、「当社だけが特別な扱いをされているわけではない」と反論する。

そもそも県が富士急に県有林を貸し出したのは1927年(昭和2年)にまでさかのぼる。富士急は県からの割安な賃料を元に別荘地を一般顧客に転貸してきた。その開発規模は約3300区画にのぼり、富士急のホームページ上でも「フジヤマスタイル」として「お求めやすい価格で購入可能」などと宣伝されている。

県が2007年に設置した森林総合利用協議会で、朝日新聞の報道で割安と指摘された賃料水準について「問題ない」「適正な値段で貸している」などと答弁をしていた県の県有林課長はその後、富士急の関係会社の代表取締役に就任していた事実も明らかになっている。

だが、従来のような関係が今後も続く保証はない。県が新たに適正だとした賃料水準に見直された場合、富士急は年間約17億円の追加負担を求められることになる。富士急は「内容的にも誤ったものである不動産鑑定評価書に従って算出された賃料の支払いを求められたとしても、これに応じることはできない」としている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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