見逃し配信「TVer」はYouTubeの敵になれるのか 株式会社化でテレビ局が挑む動画配信の成否

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まず、なぜTVerを株式会社化したのか。それはもちろん、TVerとしての営業活動をするためだ。TVerの番組には、テレビ放送同様のCM枠がついている。CMを見ないと番組が見られないし、番組の途中にもCM枠があり、飛ばせない仕組みになっている。ただ、TVerの視聴者はCMが出てきても離脱はほとんどしない。

一方でYouTubeのCMはスキップボタンがついているし、たまにスキップできないCMがあると私は大いにいらだつ。だがTVerの場合は「CMがつくもの」との前提で見る。

そのCM枠は、いままでは各局の番組の枠を、その局の営業マンが売っていた。今後も各局個別のセールスが中心だが、それとは別に、株式会社TVerの営業マンがTVerの枠全体のセールスも始める。TVerのネット広告の長所を生かしたセールスをするために、TVerの営業マンが動くことになるのだ。各局とも、TVerとは別に独自の見逃し配信サービスを持っている。例えばTBSは「TBS FREE」、日本テレビは「TADA」。それらもTVerと併せてセールスするという。

オンライン通話でのインタビューに応じる、株式会社TVerの龍宝正峰社長(筆者提供)

「現状でも運用型、システムマティックにターゲットにフィットする枠にスポンサーさんのニーズに合わせて流すという形態が増えてきています。11月以降、本格的に局在庫をまたがった運用型のセールスを、TVerと在京・在阪の10社のオウンドメディアの在庫も含めてトータルで僕らがやっていこうと思っています」(龍宝氏)

「GYAO!さんなどのシンジケーション先の在庫も含めた、いわゆるキャッチアップ(見逃し動画配信サービス)の在庫全体をお借りして運用させていただく考えです。セールスの成果に関しては、例えば全部で100万imp(編集部注:impとはインプレッションの略で、広告表示回数を表す。広告出稿価格の指標などに使われる)出て、フジテレビ60万imp、日本テレビ40万impだったらその比率でコンテンツを提供いただいた放送局に金額をお支払いするモデルを作るのが今回の大きな目的の一つです」(龍宝氏)

テレビ放送ではできない、運用型のターゲティング広告をTVerを軸に活発にセールスしていくことが、株式会社TVer設立のいちばんの目的なのだ。テレビCMは圧倒的なリーチ力がいまも評価されている一方で、ネット広告のようにターゲティングできないしデータも曖昧、という不満がスポンサー企業から出ていた。それを解決する新しいテレビCMの売り方を確立する。

ネットの動画広告相場にのみ込まれる懸念

ここ数年、スポットのセールスがはっきり下がっていた。だからこそ、TVerの株式会社化はテレビ番組の新しい収入源、セールス手法の構築のために必要だった。そこにコロナ禍がやってきて、いよいよスポットが大幅に減少する中で、新しい取り組みに着手する絶好のタイミングとなった。

ただ、ネットの動画広告は単価が低い。その相場にのみ込まれかねない懸念はあるだろう。現状まだ空き枠が見受けられ番宣CMが目につくTVerで、単価を彼らの希望でキープできるだろうか。

「運用型はフロアプライス(編集部注:広告枠の最低落札金額のこと)を決めたらそれで取引されますので、取引が成立するかどうかは市場の判断になると思っています。番宣ばっかりになるんだとしたら、単価は多分下がっちゃうんだろうしある程度埋まってくるなら、単価を上げても買っていただける方がいらっしゃると思うんですよね。他のインターネットメディアでの視聴状況に比べるとTVerの方が広告視聴の環境ではある程度の優位性が出せると思うので、それをしっかり説明して、妥当な料金でセールスをしていければと思ってます」(龍宝氏)

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