日本の格差拡大が昭和末期に始まっていた証拠 国民は容認したが現実には階級社会が進行した
しかし社説が、あえて「階級社会」という言葉を用いたことには、必然性があったようにも思える。というのは、しばらくすると、いくつかの雑誌記事に「階級」あるいは「階級社会」という言葉が数多く出現するようになるからである。
ただし、時代はバブルを迎えていた。たしかに格差が拡大する日本の現状を否定的にとらえる記事も、「消費税ガン細胞論 最大の問題は、『新・階級社会』化の引き金になることだ」(『SAPIO』1989年8月10日号)、「政財界に横行する『世襲』こそ『新階級社会』を生み出す元凶だ」(『SAPIO』1989年9月14日号)のように散見したが、やがて増えていくのは、バブルの熱に浮かされたかのように、欧米の上級階級・中流階級への憧れを語り、読者をその模倣へと誘う記事だった。
「階級」の形容詞形を名称にした雑誌も登場
たとえば、次のような記事である。
「イメージはイタリアの上流階級―マダム・リングの贅沢な存在感」(『CLASSY.』1990年7月号)
「英国式田舎趣味の贅沢―上流階級のステイタスである“田舎育ち”のセンス」(『エスクァイア日本版』1990年10月号)
「古き良きアメリカが残る上流階級の避暑地に素敵なINNを訪ねる旅」(『家庭画報』1991年9月号)
「イギリス上流階級の重厚な人生ドラマを味わいたい」(『クリーク』1992年7月5日号)
なかでも『CLASSY.』という女性向け雑誌は、突出していた。そもそも題名が「階級」の形容詞形である(意味は「高級」「上品」といったところ)。「名門の令嬢たち」と題して、欧米の上流階級の女性たちに取材したシリーズは35回を数えている。
海外の高級ホテルやレストランなどを、予約方法などを含めて紹介する記事も多い。世界から富豪や王族が集まるという、バハマのリゾートホテルや、レンタルも可能なカリブ海の別荘を紹介し、「私たち日本人にもやっとそのよさがわかりかけてきた、何もしない贅沢を実践することだけが、ここでのルールです」(『CLASSY.』1989年11月号)、「ホテルよりもずっとプライバシーがあり、独立した時間が持てる」(『CLASSY.』1990年5月号)などと読者を誘惑する。
バブル経済を背景に、富裕層はもちろんのこと、多くの人々が消費を伸ばし、株価が下落したあともその余韻が続いていた時期である。欧米の上流階級のテイストが、多くの人々に手の届くものとして認知されていたことがうかがえる。
とはいえ、真に受けてホテルやレンタル別荘を訪れた若い女性たちがいたとしたら、ほぼ全財産を失ったのではないかと想像するが、その後はどうなったのか。
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