台湾デジタル大臣「唐鳳」を育てた教えと環境 天才をつくった恩師の言葉と両親の教育

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IQ180以上、不世出の天才として、台湾だけではなく日本でも熱い注目を浴びている人物、唐鳳(とう・ほう/オードリー・タン)氏(39歳)。2016年10月に蔡英文政権のもと、台湾史上最年少35歳の若さで、デジタル担当大臣として行政院に入閣するや、台湾のデジタル政策において手腕を発揮、今回のコロナ禍でもデジタルで数々の課題を解決してきた。今回の緊急ロングインタビューでは、前回に引き続き、デジタル時代だからこそ必要とされる思考、自身の受けてきた教育や、その哲学について深く迫る。デジタル社会に生きる人すべてに、必読の内容だ。

多様な文化を知ることが、「寛容」につながる

――前回は、唐鳳さんが考えるデジタル教育の本懐についてお聞きしました。ここからは唐鳳さんの個人的なことについてお聞きします。唐鳳さんは幼い時から読書家だったと聞きました。座右の書、影響を受けた本というのはありますか。

唐鳳:最も影響を受けた本があるにはあるのですが、とても推奨しにくいですね。合計16万項目ある『再編国語辞典』なんですよ。辞典の良いところは、自分が直接的な体験をしていなくても語意を理解できるという点です。

以前、私は仲間と一緒に『萌典』(https://www.moedict.tw/)という辞典を作りました。これは台湾の文部科学省に当たる教育部が、日本語の「萌え」と「萌える」(芽生える)という意味を兼ねて作ったものです。ここでは、紙の辞書のように時間をかけて調べるのではなく、さまざまな機能を設計し、提供することで中国語(華語)や台湾語、客家語はっかご、さらには台湾の原住民(注1)の言葉などをすべて同じインターフェースに収めて調べることができます。

つまり1つの言葉を学ぶときに、多くの異なる言葉を同時に学べるようにしたわけです。そうすることで、自分たちの言語、文化のみで考えるというこれまでの考え方を崩し、言語、文化の枠を超えた学習環境を実現しました。これはとても大事なことです。

誰もが多くの文化に精通することは不可能ですが、自分の身の回り、例えば台湾においても、これほどまでに多様な文化が存在していることを、まず『萌典』で知り、その事実に慣れていけば、おのずと心を広く持ち続けることができるのではないでしょうか。

質問に対する回答はどれも明晰で、時に複数言語や、ジェスチャーも用いて説明してくれる

「ソクラテス式問答法」と「新たな交換様式」

――唐鳳さんの言動に対して、しばしば「哲学的」だとの評価を聞きます。小学生の時から「ソクラテス式問答法」(問いを立て、それに答えるという対話に基づいて批判的思考を活性化させ、考えを明らかにする方法)で対話をされていたという逸話もあります。お好きな哲学者、哲学書というのはありますか。

唐鳳:私は現在、RadicalxChange(https://www.radicalxchange.org)という非営利ソーシャルイノベーション組織に参加しています。本部は米ニューヨークにありますが、全世界で運営されている組織です。私はデジタル大臣として働く傍ら、起業も行っています。

私と一緒に起業した人物で、エリック・グレン・ワイル(E.Glen Weyl)さんは、起業する一方でマイクロソフト社で未来学者のような役割を担っています。またヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)さんは、われわれと起業しながらEthereum(イーサリアム)(注2)というソースコードを開発する計画に携わっています。

ヴィタリックさんのEthereum上で研究開発された「新たな交換様式」は、不特定多数の人が公共の利益のために交換することを可能にするものです。これは一見すると個人のための利益に見えるかもしれませんが、最終的にはコミュニティー全体の利益になるという共通認識につながります。これらはメカニズムデザインの活用方法であり、私はこれを台湾の政治にできる限り応用するようにしています。

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