台湾デジタル大臣「唐鳳」を育てた教えと環境 天才をつくった恩師の言葉と両親の教育
クリエーティブシンキングの意味は、既存の型や分類などにとらわれることなく、自分の方向性を見つけていくことです。星座でいえば、すでに構成されている星座からいったん離れて、自分で星をつかむように見て、自ら新たな星座を構成していくということはできますよね。母はこのような考えで私を教育しました。
――私(聞き手:福田)の父も新聞記者だったのですが、子どもの頃に、父から「聞くことは大事だが、聞く前に自分で調べてみるのがより大事」と口を酸っぱくして言われたことを思い出しました。
唐鳳:それもすばらしいことです。私が小さい頃には、まだインターネットはありませんでした。調べるということは、今より手間がかかり、難しかったでしょう。ただ、今の子供たちには、インターネットがあります。私の世代はデジタルへの「移民」ですが、今の子どもたちはデジタル「ネイティブ」と言ってもいいですね。調べるということについては、とてもハードルが下がっていると思いますよ。
「辺鄙な場所であるほど先進的に」
――現在デジタル大臣として働いていますが、デジタル大臣として今後の目標、あるいはやってみたいことはありますか。
唐鳳:10年単位でいえば、SDGsですね。2030年までに達成しなければなりませんから。CO2の削減目標などすぐに達成するのは難しいものもありますが、今回の新型コロナで経済活動が停滞したことにより達成できる可能性もあるかもしれません。
――以前、台湾におけるSDGsの好例として、台湾製の電動スクーター「Gogoro」を紹介されていました。そのほかにもよい例はありますか。
唐鳳:私はブロードバンドの普及を挙げたいと思います。「ブロードバンドは人権だ」という話をよくするのですが、それはどのような場所でもインターネットにつながるべきだということを指します。
実は、私も昨日新たに5Gの携帯電話を契約しました。台湾では、5G網を発展させる中で、まず「辺鄙な場所であるほど先進的に」という、とても変わった手法を採用しています。これは、現状で4Gがつながりにくい場所こそ先に5Gを取り入れていくというやり方です。
現在、台湾では「非スタンドアローン型」(NSA)といって、4G基地局の上に5Gを構成して試用している状況ですが、これから5G網を本格的に構築していく際には、都市部ではなく地方を優先して普及させていく予定です。なぜ地方を優先するのかというと、そのような地域では、最寄りの学校や医療機関に行くために、ほかの地域よりも距離があることが多く、通信網の確保は重要だからです。そうすることで、遠隔的な教育や医療体制が必要になった場合、優先的に5G網を確保することができます。
――日本でも都市部と地方間のデジタルデバイド(情報格差)が問題になっていますが、台湾の場合、地方であればあるほど最先端であるべきという考えなのでしょうか。
唐鳳:そのとおりです。周波数は公共の資源でもあります。そのため、5Gの周波数帯をオークションにかけた際、市場価格以上に高額な入札保証金を課しました。たしか800億台湾ドル(オークション時、日本円で約3200億円)だったと記憶していますが、そうすることで電気通信事業者が、通常の加入者だけでは利益が上がらない地域に、優先的に予算を投入することを課しています。これにより、「辺鄙な場所であるほど、先進的に」という目標を達成するべく、電気通信事業者が費用を使うようになります。これも、公共政策におけるオークションというメカニズムデザインの好例だと思います。
「万事には裂け目がある。その裂け目は光の入り口である」
――最後に、日本の教育に関わる子どもたち、親、先生たちにメッセージをいただけないでしょうか。
唐鳳:私からのメッセージは、皆さんが誰であっても、同じです。私が大好きなカナダの詩人・歌手であるレナード・コーエン(Leonard Cohen)の「Anthem」の一節をご紹介します。
The birds they sang
At the break of day
Start again
I heard them say
Don't dwell on what
Has passed away
Or what is yet to be
Yeah the wars they will
Be fought again
The holy dove
She will be caught again
Bought and sold
And bought again
The dove is never free