夏の株高に賭ける人が無視する「3つのリスク」 今年も「サマーラリー」はやって来るのか?

拡大
縮小

2つめは、新型コロナウイルスの感染再拡大のリスクだ。以前からロックダウンを緩和させる方向に進めば、ある程度感染が拡大することは予想されていた。

だが、今後はそうした事態を受けて、経済活動を再度制限するような措置が打ち出されるとして、それがどの程度になるのか。これが、カギを握りそうだ。トランプ大統領は、感染が再び拡大してもロックダウンを強化することはしない意向を示していたが、権限を持っているのは州知事であり、ここへきてそうした動きが出てくるようになってきた。

例えば、テキサス州のグレッグ・アボット知事は従来の姿勢から一転、マスク着用を義務付ける方針を発表。フロリダ州の主要都市であるマイアミのデイド郡では、夜間外出禁止令が発動された。また北部の州でも感染が拡大している南部の州からの訪問者に対して、14日間の隔離を求めるという、実質的に短期的な移動を禁止する方針を発表したし、ニューヨーク市では6日からレストランの屋内での食事が認められることになっていたが延期されている。

それまでマスク着用に対して強く抵抗感を示してきた大統領も、一転してマスク着用を支持せざるを得なくなっており、実際自らもマスク姿を披露せざるを得なくなった。今後ホワイトハウスの方針がロックダウンの方向に逆戻りすることも十分にあり得る。経済活動が再び制限される方向に進んでいくのなら、景気回復のペースも一気に鈍ることになるのは避けられない。

1つでも「リスク顕在化」なら株価大幅安も

3つめは個人消費だ。不安材料が数多く残る中、GDPの約3分の2を占めるとされる個人消費は、今後も低迷が続く可能性が高い。雇用統計が強気のサプライズになったとはいえ、2020年の雇用は最初の6カ月間で約1419万人の減少となっている。失業率が10%を超えるという状況下で、雇用の先行きに対する個人の不安は収まっていない。失業保険の割り増し給付も永遠に続くわけではないし、現在職に就いている人の中にも、給与の減少に直面している人は多い。

6月26日に発表された5月の個人消費支出は、3月、4月と記録的な落ち込みとなった反動もあり、前月比で8.2%の大幅増となった。だが、前年同月比では9.3%の減少であり、消費は低迷したままだ。個人所得を見ても、給与所得は前年を5.7%下回っており、将来の収入に対する不安はこの先さらに高まることこそあれ、当面解消されることはない。

確かに株価の急回復である程度消費者心理は改善したとは思われる。だが、株高の恩恵を受けるのはやはり富裕層が中心だ。先行きに対する不透明感が高まるなかでは、一般消費者の財布の紐は固くなりがちだ。
このようにアメリカ経済に立ちはだかる3つのリスクを、はたしてトランプ政権は克服することができるのだろうか。

このうち、1つめの米中関係に関しては、トランプ政権の方針次第で解決可能ではある。また2つめの新型コロナに関しては、人間の手で食い止めることは不可能と考えておくべきだが、それでもさまざまな対応策を適切に打ち出すことができれば 、最悪の事態は回避することはできそうだ。最後の消費に関しては、雇用に対する人々の不安を解消するには、政府による大型の追加経済対策が必要になる。だが、最近の強気の経済指標は積極的な財政出動の足枷となるかもしれない。

もし、トランプ政権が舵取りを誤り、これらのリスクのうち1つでも顕在化するようなら3月の安値近辺まで一気に調整が進むことがあっても、何ら不思議ではないと見ておくべきだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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