「エリート家族」が生きがいだった老女の末路

息子はアメリカの名門校を卒業後、帰国せず

すると、案の定、その方から電話がありました。時間が早朝だったうえ、想像していなかった内容でした。

「朝の4時半ころ、うちのインターフォンが何度も何度も鳴るもんだからさすがに起きて玄関に行くと、ヨネ子さんがウロウロしててびっくりしたよ。どうしたんですか?って聞くと、意味不明なことをずっとしゃべってて、とりあえず家に送っていったんだけど、何かを盗られたとか、ずっとモゴモゴ意味不明なことばっかしゃべってんだよ」と。

家具を処分した日の翌朝の出来事でした。この日からヨネ子さんの徘徊が始まったのです。

これまで、脳の状態もお身体の状態もなんら問題はありませんでした。今でいう“空の巣症候群”の軽度のうつという診断だけでしたが、なんと、検査をすると脳委縮が始まっていたのです。

「生きている意味」を見出せず壊れた心と身体

すぐに窓口になっているアメリカの息子さんに連絡を入れるも「忙しくて帰国できないので、介護認定などは近くにいる親戚に頼んでみます。母とは関係がよくないので、連絡はよほどのときだけで大丈夫です」と冷ややかなトーンでこれだけ告げられ、すぐに電話を切られてしまいました。

親子関係においてこれまでどんなことがあったのかはわかりませんが、本人を目の前に「早く死ねばいいのに」と言う家族がいたり、救急車を呼んで一命をとりとめた際には「なんで助けたの?」とクレームがあったりという経験をしていた筆者にとって、「あぁ、またか……」と肩を落とす状況でした。

ヨネ子さんは、自分の生きがいを「家族」に求めてきましたから、息子さんたちにとってはなんでも「家族のため」と言われ続けて窮屈だったのかもしれません。

支えることを生きがいとし、自慢をすることで自分のポジションを守ってきた夫がいなくなり、子どもたちも自分の元を去り、何に自分の生きている意味を求めていいのかわからなくなってしまった中で、唯一の思い出だった家具までなくなってしまい、すっかり心と身体が壊れてしまったのです。

ヨネ子さんは、会うたびに「生きていても感動がない。何のために生きてるんだか、何のために人と話してるんだろうって思う」と言っていました。

この後、ヨネ子さんは施設へ入ることになり、筆者はそれ以来お会いできずに今に至ります。

人間とは何とももろいもの。そして家族関係とは自分の思い描いたとおりにはいかないものです。そして、「誰かの人生ではなく、自分自身の人生を生きなければいけないんだ」と、当時まだ若かった筆者はヨネ子さんから人生の教訓を学んだのでした。

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