サザンの「無観客ライブ有料配信」に集まる期待 コロナ時代に苦しむエンタメ界の活路となるか
ライブエンターテイメント業界は、コロナの流行を受けてライブの中止・延期を余儀なくされている。5月に会見したぴあの矢内廣社長によると、音楽ライブやスポーツの中止・延期の総数は2─5月で19万8000本、入場料金は3600億円消失した。
ぴあ総研は、来年1月までの1年間で中止・延期は43万2000本、入場できない人数はのべ2億2900万人に達すると予想。入場料は19年推計の77%にあたる6900億円が失われるとされ、「完全回復には来年1年くらいはかかるのではないか」(矢内氏)という。感染拡大の第2波や第3波があれば、回復に要する時間はさらに伸びかねない。
ビジネス停滞の長期化で、ライブを支えるスキルやノウハウを持った人材が流出したり廃業したりすることへの懸念も強い。矢内社長は「業界として再び立ち上がれなくなるリスクがある」と危機感を示した。
ビジネス展開に新たな道も
無観客配信ライブは、知名度のあるアーティストしか行うことは難しいとの指摘は多い。観客との一体感というライブならではの迫力を出せるのかという課題もある。さらに、新型コロナが終息し観客を入れてのライブが復活すれば、ニーズが減退することもあり得る。
こうした課題は残りながらも、ライブ配信がエンタメ業界にとって今後の新たな収益源になると期待を高める一つの要因が技術の向上だ。
NTTドコモの動画配信サイト「新体感ライブCONNECT」は、一部で仮想現実(VR)を用いたライブ配信を始めている。海外では、コンピュータグラフィックス(CG)を用いて現実のライブではみることができない映像に加工する例もある。
ビジネス展開も、新たな道が開けてくる。会場でのグッズ販売ができない代わりに、ネットを使ったライブ配信では販売サイトに導きやすい。国内のあるアイドルグループが3月に無料配信したイベントでは、短時間にグッズ売り切れが相次いだという。
サザンのライブ配信では、サイト上のボタンをクリックし少額の現金を提供する「投げ銭」という機能も一部で利用できる。「おひねり」1回が小額だとしても集まれば大きい。
政府も、今年度第1次補正予算で878億円の補助金枠を確保するなど、 業界支援策を打ち出している。楽天証券経済研究所の今中能夫チーフアナリストは、補助金を活用しての有料配信であれば採算を確保しやすくなるとみており、視聴人数の制約がなく遠方からも参加できるオンラインのビジネスモデルは「完全にリアルなライブが再開した後も活かせる」と指摘している。
サザンのリーダー、桑田佳祐さんは、20日のラジオ番組で「コロナの影響でいろんなものが形を変える。きっかけというかチャンスになればいい」と話していた。
(平田紀之 編集:伊賀大記、田中志保)
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