日本の「交通革命」、欧州のMaaSにはほど遠い コロナ禍でテレワークやマイカー通勤が浸透

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ただし日本の大都市は複数の交通事業者が競合する状態で、東京23区では鉄道事業者だけでも10以上に分かれる。MaaSにしても個々の事業者の周辺のモビリティの統合に留まっており、市内の鉄道、バス、タクシー、自転車シェアリングなどあらゆる交通をシームレスにつないだフィンランドの首都ヘルシンキの「Whim」の足元にも及ばない。

理想は欧米の多くの都市が実践している1都市1事業者への統合であり、現状維持の中でデジタル化したモビリティサービスを導入し、それをMaaSと呼び続けるのであれば、利用者や都市環境のことを第一に考えた真のMaaSは永遠に手にできないのではないかと思えてくる。

一方、地方はマイカー移動になびいた地域住民を公共交通に呼び戻すのに効果があると思っている。そもそもMaaSはマイカー並みのシームレスな移動を提供することで、公共交通の利用率を高め、環境問題や都市問題を解消するために生まれたからだ。

地方は鉄道やバスの事業者数が少ないので、統合は楽である。地域の商店や飲食店なども取り込むことができれば、大都市から移住してきた人も満足できるサービスが実現できる。損得勘定を抜きで考えれば、MaaSは地方に向いているのである。

さらに大都市を含めて、MaaS導入によって移動データの取得が可能になることにも注目したい。もちろん個人情報には留意する必要はあるが、「ウィズコロナ」や「アフターコロナ」の移動計画が立てやすくなるというメリットがある。

デジタル対応はやはり鈍い

課題がないわけではない。1つはこの国のデジタル対応の鈍さだ。日本はデジタルに人も金もかけたがらない。その結果、使い勝手から安全性まで不完全なシステムが構築され、トラブルが発生したりハッカーの侵入を受けたりしている、という指摘もある。

小田急電鉄はMaaSアプリ「EMot(エモット)」の実証実験をしている(筆者撮影)

しかもこの国は、現状を変えたくないという保守的な風潮が根強い。たとえば働き方では、昨年の上陸時も、計画運休が発表されていたにもかかわらず、多くの通勤者が運転再開を待って長蛇の列を作るなど、会社に行くことが仕事と考える人が多く見られた。今回テレワークが広がったのは感染という身の危険があったからであり、このような重大な変化がない限り社会を変えるのは難しい。

逆に言えば、今の日本はMaaSのようなデジタルテクノロジーは、改革の余地が十分に残されていることになる。テレワークの一段の浸透など、きっかけさえあれば、公共交通の経営改革を前進させる助けになるのではないかと考える。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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