映画「パブリック」に見る社会と図書館の繋がり ホームレスたちの最後の避難所になっている
本作は、そのエッセーにインスピレーションを受けたエステベスが、11年の歳月を費やして完成させた。彼はアメリカ図書館協会機関誌のインタビューで「この国にはホームレスを“ふびんだけど、仕方がない”と思う人がたくさんいる。ホームレスになってしまうのは、自力で苦境を打破するための一歩を踏み出さない個人の責任というわけだ。しかしそもそも、一歩を踏み出すには靴が必要だ」と語っている。
この作品の中では、アメリカ文学の巨人スタインベックがピュリツァー賞を獲得した1939年の名作「怒りの葡萄」が重要なモチーフとして登場する。
大恐慌時代、干ばつと機械化によって土地を追われた農民一家が、新天地カリフォルニアを目指し生き抜こうとする姿を描き出す物語だ。貧しい者と、富める者との格差、そして抑圧される農民たちの窮乏を描き出した「怒りの葡萄」は当時、大ベストセラーとなったが、その内容をめぐって賛否両論の渦を巻き起こし、作品の舞台となったオクラホマ州では、多くの図書館で禁書扱いとなった過去がある。
図書館員の使命感、優しさをスクリーンで表現
そうした動きに対して、1948年にアメリカ図書館協会が「図書館の権利宣言」を採択。これによって図書館は、誰もが自由に知識を得る機会を提供し、表現の自由を守るために検閲を拒否するという姿勢を高らかに宣言した。
本作の主人公スチュアートは、かつてどん底の暮らしをしていたときに、図書館に雇われ、本によって救われたという過去を持つ。エステベスはインタビューで「現代において、図書館員は事実上のソーシャルワーカーであり、救急隊員だ」と語っているが、そうした彼らの使命感、優しさがここには詰まっている。
(文中一部敬称略)
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