シャープの反省、「僕らはIGZOを過信した」 危機から1年余り、浮上の糸口を掴めるか

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IGZOを製造している亀山第2工場

これまでシャープの本業ともいえるのが、液晶だった。今も液晶事業が売上高の約4割を占めており、屋台骨を支える事業だ。経営危機前までは、この液晶の「単品売り」がデバイス部門の営業スタイルの主流だったが、売り上げの変動が大きく、経営危機の一因となった。そこで、今は顧客ニーズに合わせ、液晶と最適な電子部品を組み合わせる販売スタイルを推進している。

IGZO頼みも反省

液晶事業の中でも、反省を踏まえた取り組みが進む。”IGZO頼み“からの脱却である。IGZOはシャープ独自の液晶パネル。低コスト、省エネ、高精細さを備えた戦略商品だ。経営危機の最中、奥田隆司社長(当時)は「IGZOがシャープを救う技術だ」と、液晶復活の牽引役としてIGZOに期待した。

しかし、IGZO頼みが続いた結果、生産工場である亀山第2工場の稼動が伸び悩んだ。シャープはIGZO液晶を当初、「アイパッド」向けに供給した。しかし需要の変動に翻弄され、ノートパソコン向けなど他の客先への出荷は思うように伸びなかった。

「うちにはIGZOがあるから勝てると勘違いしていた」――。デバイス部門の多くの社員は当時、自社技術にあぐらをかいていたことを自戒する。「ほんとうは、お客さんから見たら、IGZOだろうが何だろうがよかった。要求に合わせ、いろんな提案をできれば、それでよかったのに、わかっていなかった」。

今、シャープ亀山工場ではスマートフォン向けIGZOが量産されているが、ニーズに応じ、他の種類の液晶パネルも量産できるよう、生産体制を整えている。「亀山は4インチから9インチまで、(低コストの)アモルファス液晶からIGZO液晶、(高精細の)CGシリコン液晶まで、何でもつくれるのが強み」(亀山第二生産センター・木村直史所長)

”IGZOが強み”の液晶パネルメーカーから、”ラインナップが強み”のメーカーへ。危機を踏まえたシャープの転身の試みである。

もう一つ、経営危機の反省が、冒頭に方志専務が述べた「大きなところ」(大口顧客)への依存脱却だ。経営危機の最中、シャープはアイフォーン、アイパッドなど米アップルの需要に翻弄された。今、シャープの亀山第2工場の稼動率向上に寄与しているのは、アップルに限らない。中国のZTE(中興通訊)、シャオミ(小米)・・・・・・。成長著しい、中国の新興スマホメーカーだ。「特定の顧客に依存して、ある時期からどこにお客さんがいるか、情報のアンテナが偏ってしまった。その感度を上げようと、中国など現場を走り回った」(梅本室長)。

シャープはアップルという大口顧客への依存状態から脱し、新興国の幅広い需要を取り込もうと躍起になっている。全事業の中での液晶パネル事業、液晶パネルの中でのIGZO液晶、取引先の中での米アップル…・・・。シャープが今、“脱却”しようと試みているのは、これまでのシャープの強みと、その強みを発揮できる場所である。市場の変化に合わせて、自社の強みを見直す――。シャープが特別なわけではない。同社が直面している課題は、多くの企業が抱える課題と共通点が多いといえるだろう。

(再建への苦闘を描いた特集「シャープの反省」は「週刊東洋経済」4月19日号〈14日発売〉に掲載されています。あわせてご覧下さい)

許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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