安倍首相が推しまくるアビガン「不都合な真実」 ヒトの病気に対する効果を示す研究は少数
「誰もが薬を待ち望んでいる。今すぐに必要だ。だが効果のある薬は、調査を行わなければ特定できない」と、臨床試験の設計を専門とするペンシルバニア大学のスーザン・エレンバーグ教授は語る。
世界中でコロナウイルスに対する治療法を求める声が高まる中、さまざまな薬の試験が行われている。アビガンの臨床試験を開始したか、計画中の国はいくつもあり、その中にはアメリカも含まれる。
判断を誤れば大惨事に
正しい治療法を後押しすれば、政治指導者は多くの命を救うことができる。そればかりか、自らの政治的影響力を増大させ、国際的な威信を高め、民間企業の利益に弾みをつけることも可能だ。しかし、間違った薬を宣伝すれば、大惨事となりかねない。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は最近、ヒドロキシクロロキンと関連薬のクロロキンが心臓の働きに危険な影響を及ぼす可能性があると警告した。極端な例としては、アリゾナ州の男性がクロロキンと同じ有効成分を持つ水槽用添加剤を摂取して死亡した例がある。
しかし医療専門家の間で懸念が強まっているからといって、アビガンの勢いがそがれているわけではない。この薬は日本で大きな影響力を持っている大企業の1つ、富士フイルムホールディングスの支援を受けており、その子会社である富山化学工業によって開発された。中国政府も新型コロナウイルスに対するアビガンの安全性と有効性を確かめたとしている(編集部注:各種報道によると、新型コロナウイルスに対しアビガンの有効性を確かめたとした中国のある論文は4月上旬に取り下げられている)。
日本のテレビでは、医師たちがアビガンを世界の救世主と呼び、アビガンを服用した有名人たちも、その効果を絶賛している。
しかし、りんくう総合医療センター(大阪府)の感染症センター長で、2016年に政府委員会で新型インフルエンザに対する最終手段としてアビガンを検討した倭(やまと)正也氏によれば、その証拠はまったく不確かだ。「この薬が効かないと言っているわけではないが、効くという証拠はまだない」と倭氏は語る。
富士フイルムの広報担当者は、COVID-19に対する「アビガンの有効性について確たる証拠を得るために」同社は日本とアメリカで臨床試験を進めていると話した。
アビガンはほかのほとんどの抗ウイルス薬とは作用が異なり、ウイルスが細胞内に侵入するのを止めるのではなく、ウイルスの繁殖を阻害する。そこにアビガンの潜在的な価値がある。動物実験では、特に早期の段階で投与した場合に、エボラ出血熱のような特定のウイルスの増殖を抑制することができるとされている。