三陽商会、新社長が語る「万年赤字」の根本原因 投資ファンドとの委任状争奪戦にどう挑む?
――「まったりとした社風」と言われる三陽商会は、社員の危機感が薄いようにも映ります。
私は想定していた以上に、現場の危機感が強いと感じた。特に現在は、新型コロナの影響で大半の店舗を閉めていることもあり、「仕入れをした瞬間にリスクが発生する」という意識を従業員は相当強く持ったのではないかと思う。
これからどうやって会社を守っていくかについての危機感は高い。団結心みたいなものも感じている。
――今後は、どのブランドを主力にしていく方針ですか。
アッパーミドルの市場で確実にポジションを取っていくには、マッキントッシュ ロンドン、クレストブリッジ、エポカ、ポール・スチュアートといったブランドは非常に強い武器になる。これら既存のブランドは基本的に仕入れ・発注、在庫のコントロールなどを徹底すれば、黒字化できる。
だが、例えばセレクトショップのラブレスや、2019年に始動した20~30代女性向けのキャストといったブランドは、新しい収益源にしたいという意識・目的が先走っていた。ステップバイステップで確実に採算を取りながら拡大していく戦法が正しかったはずなのに、一気に多店舗展開してしまった。このあたりのブランドは本当に将来有効な戦力となるのか、1年かけて検証したい。
通常営業に戻れば、必ず黒字化できる
――2019年に約30店を一気に出店したキャストのほか、ここ数年はEC関連企業の買収など積極的な投資姿勢が目立ちました。
バーバリーがなくなった後、どうやって一定の売り上げ規模を維持するかにこだわり、ボトムライン(利益)を考えるよりも成長戦略のほうに過度に走ってしまった。ボトムラインを押さえることと、成長戦略の推進は同時並行できれば一番よいが、やはり無理がある。リソース配分の問題もあるし、優先順位もつけなければいけない。同時並行で求めた結果、双方が中途半端で終わってしまった面はある。
まずは収支均衡を図ったうえで、将来の攻めるべき分野を見定めてそこを伸ばしていく。成長戦略だけ振りかざしてオペレーションの中身がでたらめだと、画に描いた餅にしかならない。
――再生プランでは、2021年度の営業黒字化を掲げています。前2019年度は28億円の営業赤字で、今2020年度は新型コロナの影響でさらに赤字が膨らむ懸念があります。黒字化のハードルは高いのでは?
率直に申し上げるが、新型コロナの影響がなくなり、通常の営業に戻れば必ず黒字化できると思っている。前期の赤字の中身を見ると、20億円以上が新規事業や新規投資にかかわるもの(出店や改装関連費用、広告費などと想定される)。それ以外の既存事業の赤字幅は1ケタ(億円台)におさまっている。
新規事業は今期末までに整理を行い、その赤字を半分以下にすることは十分可能だ。既存事業も、仕入れ抑制、原価低減など、事業構造改革を行えば必ず黒字化できる。言い方を変えれば、非効率な無駄だらけのオペレーションでこの程度の赤字に済んでいたということは、仕入れ量などを絞れば必ず黒字になる。
プランに掲げた施策は努力目標ではなく、決断すれば実行でき、実行すれば必ず結果が出るものに、ある程度絞り込んでいる。ゴールドウインでは原価率を2年で3~4%下げ、販管費を大きく削り、V字回復を実現した。その経験則に基づいて立てたプランだ。販管費は2年間で40億円削減する。仕入れも徹底的に削減し、滞留在庫を減らすことでセール販売を抑制していく。
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