足立区の「空き家活用」はここまで進んでいる 相談から利活用につながる例が出てきた

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地元の事業を地元事業者に、とは当たり前のようだが、ほかのプロポーザルでは、どこの事業者かよりも実績が優先されることが多い。短期で実績を作れるだろうという期待と、どんな人に委嘱したかを説明しやすいからだ。だが、空き家利活用は今後も続く息の長い問題である。2年、3年で縁が切れることがわかっている相手と組むのは税金の無駄遣いだろう。

もう1点は組んだ相手である青木氏が「作るだけ」の建築家ではなかったという点だ。建築の世界でも高齢化は進んでおり、しかも、建築家には定年がない。ベテランがいまだ第一線で活躍しており、若手には出る幕がない。

そのため、30代を中心に設計しておしまいではない仕事をする人が増えている。使い方から建物を設計、運営までを手がける、そんな一気通貫ができる建築家が生まれているのである。

一戸建てを複合施設に

たとえば、足立区への通報から活用に至った物件のひとつに、千住寿町の「せんつく」がある。これは相続後10年ほど空き家だった一戸建てを再生し、飲食店、ハンドメイド作品を置く店舗、パン教室などが開かれるキッチン、工作、洋裁などができるラボが入る複合施設にしたもので、前述の伊部氏は不動産事業者には難しい事業と評価する。

家族数が少ない今、個室が5室以上もある大きな一戸建ては貸しにくい。貸すためには多額の改修費が必要になるうえ、戸建ては戸数のある集合住宅と違い、入居しているときは入居率100%だが、退去したら一気にゼロ。そのリスクを考えると不動産会社は手が出せない。

しかし、1つの建物を改装、複数で使えるようにすればリスクは分散できる。さらに、そのためにはどのような改装をすればいいか、改装費を抑えるためにはどうすればいいか、それが分かる人がいれば利活用は一気に現実的になってくる。

「せんつく」の場合、以前、シェアハウスとして使う提案を受けたことがあった。シェアハウスもひとつの建物を複数で使うやり方だが、その際に提示された改修費は2500万円。それに対し、青木氏が提案した複合施設化の改修費は1000万円。

空き家の利活用事例としてNHKのテレビ番組でも紹介されたせんつく。建物自体は路地にあるが、周辺の人通りは意外に多く、オープン時には多くの人が集まった (写真提供:SPNE)

しかも、その3分の1ほどは青木氏が共同出資し、青木氏が建物を借りてサブリースする形である。出資はしても、賃貸で貸す場合と違い、あらかじめ家賃が入ってくる見込みがあっての出資である。大家にとってのリスクは最低限に抑えられる。生まれ育った家に愛着があった大家にはもともと残したい気持ちがあり、そこに不安を取り除く提案である。その結果、「せんつく」には10年ぶりに灯りがともることになったのだ。

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