出前館、「LINEから300億円出資」という一大勝負 ソフトバンク出資のウーバーイーツと統合も

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300億円のうち、システム開発に投じられるのは59億円と、金額こそマーケティング向けの3分の1程度だが、LINEからシステム開発要員として50人のスタッフを受け入れる。出前館の単体従業員数は約160人で、実に3分の1近い人数が送り込まれるのだ。

実は中村氏が身売り先を探し始めたのは2年前だった。もっとも重要な成長バロメーターとなるオーダー数の伸び率は、2018年8月期の終盤あたりからペースが落ちている。中村氏によると、この2年間に国内外の複数の企業から買収オファーを受けたという。

「出資金額ではLINEを上回る条件を提示した企業も複数あったが、出前館の成長のためには、システム開発での協力体制がもっとも整っていたLINEと組むことが最善の道と判断した」と中村氏は説明する。

業務執行は新社長に移譲

それにしても、トップの椅子に執着はないのか。中村氏は創業者ではないが、1999年の創業時から同社に関わり、2002年に社長に就任。2009年に後進に道を譲り一線を退いたが、経営状態が悪化したことから2012年秋に復帰した。

延べ15年間にわたって同社の陣頭指揮を執ってきており、「あまりにも長すぎる。異なる発想を持った、より優秀な経営者に託すほうが企業の成長にとって最善の道と考えた」(中村氏)。当面代表権は維持するものの、「業務執行は新社長に可能な限り移譲していく」という。

飲食業界を知り尽くした中村氏から、未経験のLINEにバトンが渡る出前館。LINEが2020年秋にソフトバンクグループ傘下のZホールディングスと統合すれば、同じくソフトバンクが出資する最大のライバル、UberEatsと同一グループになる。出前館とUberEatsの両社を競わせ、勝利した側がもう1社を飲み込むことになるのではないかという声も聞かれる。

LINEの発想とシステム開発力に期待した中村氏の判断は、出前館にとって吉と出る可能性も、凶と出る可能性もはらんでいる。

永谷 薫 東洋経済 記者

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ながや かおる / Kaoru Nagaya

繊維、化学、小売りなどの業界を幅広く担当。

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