「モノ消費からコト消費」では勝負にならない訳 水野学×山口周「役に立つ戦場から撤退せよ」
山口:野球はスプリントに比べて、物差しがはるかに複雑だからでしょうね。攻走守とか、いろいろな物差しがあって、「めちゃめちゃ打てるけど走れない」とか、「そこそこ打てて守りがすごい」とか、組み合わせで人それぞれの価値の出し方がある。つまり、物差しが複雑になればなるほどのみ込める人数が増えると思います。
ビジネスの話に戻れば、BtoBは非常に明確にKPI(重要業績評価指標)が決められていて、物差しがシンプルです。だから1位だけの総取りになる。グローバルのガチンコ競争となり、「人工知能でAmazonと勝負だ」となると、日本企業が「役に立つ」という価値で勝負するのは、結構きついと思います。
水野:世界を相手に「役に立つ」闘いをするならば、1位だけが総取りする厳しい競争に挑み続けなければならない。相当な「体力」がいりますよね。
「じゃあ、日本企業にはいったい何が必要か?」と考えると、文明じゃなく文化に行かざるをえないと僕は感じます。
山口:僕も間違いなく文化に行くと思いますね。何より、文明だけだと楽しくない。
今、日本は文明の価値を追求してBtoBのビジネスにシフトする会社もあれば、いわゆる開発途上国、これから成長していくような「まだ不便が残っている国」に市場をシフトする会社もある。
かつて日本でやって成功した「役に立つを追求するビジネス」を、場所を変えてもう1度やるんです。再現ドラマですから、これまた正解がありますね。同じことを繰り返して楽しいかどうかは疑問ですが。
「意味がある」の方向に行けば仕事は確実に楽しくなります。「楽しい」ということは非常に重要です。特にBtoCで消費者に直接モノを届けるなら、楽しさは不可欠です。
「意味があるモノ」が存在してこそ
水野:ここ5年ほど、「モノ消費からコト消費へ」なんて言葉が盛んに使われています。コト消費、つまり、その商品やサービスによって得られる体験を提供していこう、ということですが、その実態を見ると、BtoCからBtoBにシフトチェンジしているだけの企業も多い。
それで僕は、「安易にコトになんか行ったら、あっという間に崩れますよ。今こそモノの時代です」と言っているんですけど(笑)。
山口:おっしゃるとおりです。
水野:でも、「モノの時代である」と自分で断言したくせに、なぜそうなのかうまく言語化できずにいたんです。山口さんのお話を聞いて「本当にモノの時代だ!」と根拠を得て確信しました。「意味があるモノ」自体が存在していなければ、その周辺にコト消費を生み出すことはできないですよね。