「花畑牧場」ブランドの価値とは何か?《それゆけ!カナモリさん》

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■東京進出で失ったもの

 「花畑牧場ブランド」に対する消費者のイメージが大きく変容していることは確かだろう。推測になるが、やはり、「急拡大によるブランド価値の希釈」という側面は否めない。東京進出による規模の拡大と北海道限定の希少性がトレードオフされた。

 より多くの顧客に愛されるために、規模の拡大をする必要は果たしてあったのだろうか。

 頑なに北海道限定にこだわるブランドには、例えば石屋製菓の「白い恋人」がある。2007年には、ブランド存亡の危機から復活した。消費期限を1カ月先延ばしに改ざんした問題で販売停止となったのである。Wikipediaによると、同社は経営者の交代や再発防止策の励行によって100日後に販売を再開したが、その際、再開を待っていたファンが殺到し各店舗で即日完売。以後、しばらくは品薄が続いたという。

 もう一つ。六花亭製菓の「マルセイバターサンド」を思い出す人もいるだろう。同社も北海道にしか出店しない方針を貫いており、2009年9月21日号の日経ビジネスによると、日経BPコンサルティングが実施しているブランド調査で、同社は製菓業の中で上位につけ、何と老舗のとらやを上回ったという。

 ブランド論の大家、デビット・A・アーカーによれば、「ブランド認知の資産価値」はまず、「Evoked set(想起集団)」に入ることであるという。そのブランドを「知らない」(未知)→「知っている」(認知)という段階を経て、「意識している」(想起)という段階に至る。そして、「○○ならこれと決めている」という「トップ・オブ・マインド」の獲得が最終ゴールである。Evoked setに入るのは、「想起」状態のブランドと「トップ・オブ・マインド」のブランド。合わせてもせいぜい三つであるとされている。

 では、「白い恋人」はどのようなカテゴリーのEvoked setに入っているのだろうか。紛れもなく、「北海道土産」というカテゴリーであろう。「マルセイバターサンド」も同様に、北海道土産というEvoked setに入っているのは間違いない。白い恋人やマルセイバターサンドが、「これに勝るほど美味しいお菓子はない!」というほど絶品であるかといえば、筆者は決してそうは思わない。個人の感覚によるだろうが、もっと美味しい菓子はいくらでもある。しかし、商用や旅行で北海道を訪れると必ず買ってしまう。それはなぜか。

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