「がん教育」が日本の子どもに与える重要な意味 授業を通じてがんを予習することが決まった

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ところが、現実にはがん検診の受診率はとても低いのが実情です。2016年の国民生活基礎調査によると、過去1年間にがん検診を受診した人の割合は、胃がん検診が男性46.4%、女性35.6%、大腸がん検診は男性44.5%、女性38.5%、肺がん男性51.0%、女性41.7%、乳がんは女性36.9%、子宮がん検診は33.7%となっており、目標の受診率50%は残念ながら達成できていません。

子どもを通じて親もがんについて「予習」する重要性

今の子どもたちの多くは100歳以上生きることになるでしょう。しかし、幸せな生活を送るためにはいままで以上に健康について深く学ぶ必要があります。すでに小学校、中学校では生活習慣病の成り立ち、予防についての授業が行われています。これまでがんはその1つとして取り上げられてきました。

しかし、最新の研究でがんは生活習慣を改めるなどさまざまな工夫によって発症リスクが抑えられ、発症しても治癒できるとの科学的根拠が示されつつあることで、子どもの頃からがんを学ぶことになったわけです。

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こうした事柄は子どもたちが学校で授業として学ぶだけでなく、がん年齢に差し掛かる親御さん自身がお子さん以上に深い知識を得て、日々の暮らしの中で子どもたちにどのようにがんと向かい合うかを実際に示すことが大切だと思います。

今は医学の進歩で早期発見早期治療が可能になり、がんの相対5年生存率は6割を超えています。「治るがん」「怖くないがん」も徐々にわかるようになってきました。がんは「必ず死ぬ病気」から糖尿病や高血圧などと同じく完治はしなくても「一生付き合っていく病」に変わりつつあるのです。がんと共生するための社会整備も徐々に整っています。

こうしたことを正しく理解すれば不安や怖さも軽くなりますし、「がんが消える△□食事法」「末期がんでも治る○×療法」など根拠のない話や、偏ったがん情報やがん治療法に振り回されることはありません。その意味では自分自身や身内ががん患者になる前からがんを「予習」しておくことが大切なのです。

一石 英一郎 国際医療福祉大学病院内科学教授

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いちいし えいいちろう / Eiichiro Ichiishi

1965年生まれ。兵庫県出身。医学博士。京都府立医科大学卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻修了。世界の著名ながん研究者が名を連ねるアメリカがん学会(AACR)の正会員(Active Member)。DNAチップ技術を世界でほぼ初めて臨床医学に応用し、論文を発表。人工透析患者の血液の遺伝子レベルでの評価法を開発し、国際特許を取得。日本内科学会の指導医として医療現場の最前線を牽引する一方、統合医療研究や医工学研究、最新遺伝学にも造詣が深い。著書に『日本人の遺伝子 ヒトゲノム計画からエピジェネティクスまで』他。

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