ピエール瀧「逮捕後わずか1年弱で復帰」の是非 芸能界は甘いのか、活動復帰への応援と批判

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過去を振り返ると、「薬物使用などで逮捕された芸能人の多くがテレビへの復帰を果たし、それを視聴者も受け入れてきた」という歴史があります。それを踏まえると、現在もテレビ中心の生活をしている人は、「放送されているものを見る」という感覚のままで、「映画はいいけどテレビはダメ」という考え方に急変したとは思えません。一方、ネット中心の生活をしている人々は、「見たいときに見たいものを選んで見るのが当然」という感覚だけに、「自分が選んでいないのに見なければいけない」ものに対する抵抗感が強いのです。

実際、ワイドショーではテレビ中心の生活をしているであろう中高年のコメンテーターたちが「(薬物使用などで逮捕された芸能人は)テレビに出てもいい」とコメントするケースが少なくありませんし、大方の視聴者もそれを受け入れています。ところが、そのコメントをネットメディアが書き起こして記事にすることで、ネット中心の生活をしている人々の目にふれ、「芸能人は甘い」という批判にさらされる事態を招いているのです。

テレビ中心の生活をしている人々は、SNSや記事のコメント欄などで自ら発信することが少ないだけに、それが多いネット中心の生活をしている人々の声が世間のスタンダードになりやすいのは間違いないでしょう。そのためピエール瀧さんの活動フィールドは、まだまだ映画や動画配信サービスなどの限定的なものにとどまることが予想されます。

求められる「薬物使用者」としての活動

最後にふれておきたいのは、ピエール瀧さんの復帰に声をあげる人々について。

芸能人に限らず更生を目指す人にとっては、応援も批判もプレッシャーになるだけであり、「できればしばらくそっとしておいてもらいたい」と思っているものです。

「そっとしておいてもらいたいのなら復帰するな」「まったく違う仕事を探せばいい」という声もよく見かけますが、これは罪を犯したことを踏まえても、個人に対する行きすぎたコメントであり、職業選択の自由という観点からも適切とは言えません。ピエール瀧さんが現在、薬物を使用しておらず、ビジネスとしての需要があるのなら、芸能活動をすることに問題はないはずです。

当然ながら、応援も批判も声をあげることは個人の自由であり、これを止めることはできません。ただ、自分の人生から目をそらして、他人の人生に熱を注ぐような行為は、生産性という意味で懸命なビジネスパーソンとは言えないのも、また事実なのです。

ピエール瀧さん本人としては、応援や批判の声に一喜一憂することなく芸能活動に励み、さらに薬物使用の当事者という立場から、その恐ろしさを伝える活動もしていくべきでしょう。これは沢尻エリカさんも同様であり、人々の批判よりもずっと重い十字架を背負って生きていかなければいけないことを物語っているのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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