他人の不倫に大騒ぎする日本人への冷めた目線 もちろんけしからんが謝るべき相手は誰か

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そんなふうに、仕事に直接影響をもたらさないとわかっていても、彼らも人間である以上、書かれたくないことを書かれるのは、つらいものだ。その状況を乗り切るための1番の方法は、そういった記事を見ない、聞かないこと。それらについてのコメントもしない。

彼らが雇うパブリシストにも、不倫問題などが浮上したときにマスコミから問い合わせがあっても「プライベートはいっさい語りません」で通すか、あるいは完全に無視してもらう。しかし、本人が胸の内を明かしたい、傷つけた配偶者に対して公に謝罪したいというのならば、別だ。

2017年に奥さん以外の女性と関係をもったことが発覚したケビン・ハートは、まさにそうだった。報道が出た当初こそ認めなかったものの、それからまもなく彼は妻と息子に向けての謝罪文をインスタグラムに投稿。その後のラジオ出演でも「あれは本当に無責任で、自分は最高に愚かだった。それがどんな状況であったにしろ、悪いのは自分だ」と語っている(関係をもった女性はその様子を動画で撮影しており、ゆするつもりだったと言われている)。先月、Netflixで配信がスタートしたドキュメンタリーでも、彼はその出来事に触れた。

不倫は社会に影響与える問題ではない

アーノルド・シュワルツェネッガーやデミ・ムーアは、自伝本で過去の不倫を告白し、ざんげしている。人生を振り返る機会を得た彼らは、暗い部分についても向き合い、すっきりしようと思ったのかもしれない。それはあくまで彼らが自分で決めたこと。やらないならやらないでよかったことだ。聞く側にしても、本人が言いたいなら耳を傾けるし、言いたくないなら聞かないでいい。そもそも、社会的に影響を与える問題ではないのだ。

もちろん、視聴者には、不倫はけしからん、あいつの番組は見ないという権利がある。だが、そう言われるからと、本当はやりたい仕事をわざわざ「自粛」する必要はないのではないか。実際、不倫はけしからんことだ。しかし、謝るべき相手は視聴者ではない。プライベートで間違いを犯した当事者には、あくまでプライベートな形で反省してもらえばいいのではないかと、この手の報道を見るたびに、ふと考えてしまう。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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