ANAが「オーストラリア路線」を強化する事情 豪州2位と提携、ライバルJALへ強烈な対抗心

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パースが位置するオーストラリア西部は、鉱山やガス田などのエネルギー資源が豊富だ。路線戦略に関わるANAの関係者は「パースは資源系のビジネスマンはもちろん、日本人の富裕層が多く在住しているし、高級ホテルも多い。利益柱のビジネスクラスが埋まる勝算があった。それでいて、複数社が参入できるほどの市場規模はない。この路線開設はいい一手だった」とほくそ笑む。

JAL・カンタス連合が持たないパース線という武器を引っ提げ、ヴァージン・オーストラリアとの提携で課題だったオーストラリア国内乗り継ぎ線もANAは獲得。JAL・カンタス連合を追撃する態勢が整った。

ANAの平子裕志社長は2019年12月の定例会見で「オーストラリアは今までシドニー1本で、(乗り継ぎ先へ)何の接続もできていなかったマーケット。ヴァージン・オーストラリアとの提携を(コードシェアなどで)前に進めていきたい」と期待を膨らませる。

「JAL攻略」を着々と進めるANA

ANAはこの1年、JAL攻略を矢継ぎ早に進めている。2019年5月から、JAL31%、ANA13%のシェアであるハワイ路線に座席数520席と世界最大規模を誇るエアバスA380を導入(数字は2019年3月時点、いずれも提供座席数シェア)。2020年7月1日からは、週14便の成田=ホノルル路線はすべてA380で運航する。これにより、羽田線を含めたANAのハワイ路線シェアは25%まで上昇する見込みだ。

破綻から10年を経て再加速を図るJAL。路線拡大に集中したいところだが、複数の先行地域で「防衛戦」を強いられそうだ(写真:尾形文繁)

さらに、日本の航空会社でJALのみが運航してきたロシア路線に、3月16日から週2便の成田=ウラジオストク路線を開設して新規参入。3月29日以降には羽田=モスクワ路線の開設も計画している。

対するJALも黙ってはいない。3月29日からは念願だった成田=シドニー、ホノルル両路線の羽田移管を計3便実現。ロシア路線でも成田=モスクワ路線の出発空港を羽田に移すだけでなく、到着空港もパートナーであるアエロフロート・ロシアが拠点とし、モスクワ中心部からのアクセスやサービス品質の評価が高い別の空港へと移管する。

さらにANAと同日に成田=ウラジオストク線の開設を発表。同社より2週間ほど早い2月28日に就航することで「日系キャリア初のウラジオストク就航」を実現し、ロシア路線へのこだわりを見せている。JALのある幹部は「厳しい戦いになるだろうが、絶対負けない」と対抗心を隠さない。

JALが経営破綻してから、ちょうど10年。なかなか見られなかった国内大手2社による全面対決は今年、大いに盛り上がりを見せそうだ。

森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケ、コンサル、エンタメ産業などを担当。過去の担当特集は「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」「激動の出版」「パチンコ下克上」など。

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