ウクライナ情勢がさらに悪化すると影響甚大 本村真澄・JOGMEC担当審議役に聞く

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――近年の日本とロシアのエネルギーを巡る関係は。

どんどん良くなっている。ロシアからの原油輸入も、ここ数年で急速に伸びたものだ。JOGMECも東シベリアにおいてロシア企業と共同で油ガス田開発を行っているが、30年代にかけて巨大資源開発計画が目白押しのロシアは、今後も日本の新たな投資先として有望だ。ロシア国内のシェールオイル開発も、エクソンやシェルなどメジャーの技術を取り込んで進みつつある。

エネルギー分野に限らず、自動車や機械など日本企業による対ロシア投資は拡大している。ビジネスとしての価値はもちろん、近距離であることの安全保障上の価値など、ロシアが日本にもたらすメリットは多い。こうしたことも念頭に、今回の政治問題を考えなければならない。

ロシアが欲しがるウクライナの権益

本村真澄(もとむら・ますみ) 1975年、東京大学理学部卒。77年、同大学院卒。石油開発公団入団。90年、石油公団中国室主査。98年、ロシア中央アジア室長。2004年、JOGMEC調査部主席研究員。11年、特別顧問主席研究員、13年、担当審議役、現在に至る。「日本はロシアのエネルギーをどう使うか」(13年)など著書多数。
 

――そもそも今回の政変の発端は、昨年11月に前政権がEUとの連合協定調印を見送ったことにある。

2015年の大統領選で再選を狙っていたヤヌコビッチ氏は、EU連合協定に調印してIMFの大型支援融資を受け入れれば、国民に不人気な緊縮政策の導入を余儀なくされ、選挙に不利と考えた。また、協定調印の条件だったティモシェンコ元首相(当時、職権乱用罪で収監中)の国外療養を認めて釈放すれば、大統領選での強力なライバルとなり、これも再選に響くと見たのだろう。

ただ、前政権が絶対飲めない条件をEU側が突きつけたともいえる。それは、ギリシャ危機で痛い目に遭ったドイツが経済的に劣等生のウクライナをあまり早くEUに入れたくなかったためとの見方もある。

――その後の12月17日、ロシアはウクライナ前政権との間で、ウクライナに対するガス価格33%値引きと150億㌦の金融支援を行うことで合意。この合意の裏には何らかのウクライナ側の譲歩があるとも見られていた。

反政権デモが続いていたこともあって、密約があったかは明らかにされてないが、個人的には、それがウクライナ国内のパイプライン権益であった可能性もあると見ている。ロシアは経済危機に陥ったベラルーシとの間でも、ガス価格の値引きと引き替えにベラルーシのパイプライン権益取得に成功している。

ロシアがウクライナ国内のパイプライン権益を欲しがっているのは明らかだ。現状、ロシアは欧州と結ぶパイプラインにおいて、ウクライナ国内のみは流量、圧力など操業に関する情報を見ることができない。ウクライナによる国内権益(使用料)の独占が、ガス価格交渉においてウクライナの立場を強くしていた要因でもあった。そのため、12年にはロシアのガスプロム社がウクライナ国内のパイプラインシステムの株式を提供するよう要求し、その資産評価も行っていた。

2月24日にロシアのメドベージェフ首相は、この合意がヤヌコビッチ大統領との個人的合意ではなく、政府間合意であり、法律的拘束力もあると発言した。ところが(ヤヌコビッチ政権崩壊後の)3月3日にはガスの値上げが発表された。結局、この合意は密約の存在もわからぬまま破棄された形だ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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