米国が懸念イランの「サイバー攻撃」のシナリオ イランによるサイバー攻撃の具体例3つ紹介

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まさにその日(1月4日)の夜、米連邦政府刊行物寄託図書館制度のウェブサイトがイラン人ハッカーを名乗る何者かによって改ざんされ、イランの地図からにょっきり突き出した拳骨がトランプ大統領の左頬を殴りつけている画像が投稿された。

口から血をダラダラ流し、顔を歪めている大統領の胸の前をイラン国旗の描かれたミサイル2基が白煙を噴射しながら飛んでいく。司令官を殺害した犯罪者たちには報復が待っているとのメッセージも書かれていた。

こうした改ざんはアメリカ国内でほかにも確認されているが、被害は限定的のようだ。改ざん自体はそれほど高度なサイバー攻撃ではなく、破壊工作というより示威的意味合いが強い。

アメリカのCBSニュースは、その日、「イラン政府本体ではなく、イラン政府を支持するハッカーの仕業ではないか」との匿名の政府高官の見解を報じた。サイバーセキュリティ予算をあまり割けない小規模の政府機関を狙ったと見られる。

イランからありえるサイバー攻撃のシナリオとして、国土安全保障省が1月6日に挙げているのが、企業から知的財産に関する情報が盗まれることや反米感情をあおる偽情報の拡散である。だが、シナリオリストの筆頭に挙げ、最も警戒しているのは、アメリカの重要インフラの運用を妨害するためのサイバー攻撃だ。

重要インフラとは、国の社会経済活動や安全保障を維持するうえで必要不可欠なサービスだ。電力、水道、エネルギー、金融、通信、交通、医療などが含まれる。

イランのサイバー攻撃の能力強化のきっかけ

イランがサイバー攻撃の能力強化に乗り出すきっかけとなった事件がある。2009年から2010年にかけて、イラン中部のナタンツにあるウラン濃縮施設の遠心分離機のうち1割にあたる1000基が破壊された。イランの核兵器開発はこの破壊で1年半から2年遅れたとアメリカ政府は見ている。

この破壊は、イランの核兵器開発を妨害するために行ったアメリカとイスラエルのサイバー攻撃が引き起こしたものだと、2012年6月、ニューヨーク・タイムズ紙がスクープした。

イランのこの施設はインターネットに接続されていない。アメリカとイスラエルはイランの技術者の中に協力者を得て、ウイルスを仕込んだUSBメモリを施設内にこっそり持ち込み、ウイルス感染を広げた。ハリウッドのスパイ映画さながらの隠密作戦だ。

次に周波数変換装置へサイバー攻撃を仕掛け、遠心分離機の回転速度を上下させることで過度の負担をかけた。ナタンツの職員が遠心分離機の異常に気づくのを遅らせるため、施設のモニターに正常値を表示し続けるという手の込んだ仕掛けもしていた。

インターネットにつながっていなくても、サイバー攻撃で機器の破壊という実害も与えられる。サイバー攻撃と言えば情報を盗むものという人々の固定観点にコペルニクス的転回をもたらし、その後の国家によるサイバー攻撃のあり方を変えた分水嶺的事件である。

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