日本製AIが自ら見つけ出した「がん再発」の特徴 がんのほか、希少疾患の診察に使える可能性

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さらに多施設による検証のため、聖マリアンナ大学、愛知医科大学の協力を得て新たに病理画像計2276枚(パッチ画像100億枚分)を解析したところ、日本医科大学とほぼ同等の結果が出た。現状、病院ごとに特化し他の病院では使えないケースも多いAIだが、このシステムでは汎化性(普遍性)の高い情報を得られているということだ。

再発しやすさに影響する別因子を発見

この技術のポイントは、AIが獲得したパターンを、さらに人間が理解できる画像情報として表示できるところにある。AIが見つけた再発しやすい画像には、グリソンスコアに相当するがんの診断基準が含まれているうえ、今まで気づかれていなかった特徴も含まれていた。

「がん細胞だけでなく、間質の細胞密度を、再発しやすさに影響する因子としてAIは同定している」と山本リーダーは説明する。間質とは、細胞と細胞を接着し支え、情報伝達にも関与する組織のことだ。

この新たな知見が、どういった仕組みで再発に影響を与えるのかは今後の研究にゆだねられるが、がん細胞がなくても間質が密なパターンであれば再発のリスクが高いというAI診断は、病理医による画像診断にはなかった知見だ。さらに、AIと病理医の診断を併せることで診断確度がいっそう高まることも明らかになった。

「ディープラーニングには大量のデータが必要とされるが、100人の病理画像(1人1枚)からこれだけの結果を得られたことから、希少疾患への応用が可能ではないか」と山本リーダーは期待する。また、今回の前立腺がんの画像データは手術で摘出された検体のものだが、乳がんなどでは生検(がんの疑いがある部分に針を刺して少量の組織を取る手術)のような微量の検体でも解析は可能で、摘出を伴わない他のがん種への応用も期待されるところだ。

がん診断だけでなく、新しい治療法の開発やさまざまな画像から新たな知識を獲得するための自動解析手法としても利用可能という。

実用化については、「今後は前向きの試験(治験)を行って性能を検証する必要がある。またAIを安心して医療に使ううえでのルール化も求められている。このためすぐに臨床面での実用化というわけにはいかないが、がんに苦しむ患者さんに少しでも早く届けられるように、可能な限り早い段階での実用化を目指している」(山本リーダー)。

この研究で使われたAI技術は、理化学研究所AIPセンターが所有するディープラーニングに特化したスーパーコンピューター「RAIDEN」で、完全な日本製だ。さらにソフトウェア開発を含め、関係する研究者は全員日本人、データもすべての日本人のもの。オールジャパンでの成果という点で、日本のAIの存在感を示すことにもなりそうだ。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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