30~40代男性が7割、「性依存症」の深刻な実態 見えない心の病を抱えた患者たち

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当院では、初診時に患者さんごとの「リスクアセスメント」(危険度評価)を行いますが、危険度の高低にかかわらず“最低3年間”の治療を基本としています。とくに最初の半年間は、集中的にクリニックへ通ってもらうようにします。

というのも、患者さんたちは、逮捕されたり出所して間もない時期のため、精神的に追い詰められ孤立してしまうからです。そのような状態から脱するには、同じ心の病を抱えた“仲間”が必要なのです。

プログラムの内容としては、自分自身を振り返る「自分史」をはじめ、「性依存と治療」や「性依存と家族」を学び、性依存症について書かれた本や被害者の手記などを読み、内容について考えるミーティング、認知行動療法について学びます。

「治療」の難しさ

Bさんは駅の階段でハイヒールを盗むことが多かったため、電車で通院させることは危険だと判断し、クリニックの近所にある寮に入ってもらいました。従順に治療を受けていたのですが、約半年後、女性にしつこくつきまとって身体に触れ、再び逮捕・勾留されてしまいました。

『やめられない人々 性依存症者、最後の「駆け込み寺」リポート』(現代書林)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

それを知った私は、性依存症治療の難しさを改めて実感させられたものです。治療中も「ハイヒールを盗むファンタジーがずっと消えない」と話していたBさんの心に潜む闇は、医師の想像を超えるものなのかもしれません。

心の病は目に見えません。内臓疾患のように病巣を除去すれば治るというものでもありません。根気強く治療する以外に道はないのです。私が60年にわたって経験し、積み重ねてきたものが、その治療の根幹になっています。

性依存をはじめとする「依存症」について、ご理解いただけたでしょうか。

患者さんの治療・支援のため新しいシステムをつくり、日々取り組んでいる私たちの活動をあわせて知っていただければ、うれしい限りです。

<著者プロフィール>
榎本稔◎1935年生まれ。医療法人榎本クリニック理事長。医学博士。拓殖大学客員教授、日本「祈りと救いとこころ」学会理事長、日本「性とこころ」関連問題学会理事長、日本外来精神医療学会名誉理事長、日本精神衛生学会理事、日本デイケア学会理事などを務める。
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