「桜を見る会」問題が象徴する安倍政権の体質 「安倍一強」政権が政官界の倫理観を破壊する

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より深刻な問題は、「安倍一強」と言われる政治状況の中で首相のこうした姿勢が、政界や官界にも広がっていることだ。

桜を見る会のような問題が表面化しても、安倍首相は非を認めず、説明もしない。代わりに対応する官僚は、首相の対応に合わせて答弁したり、つじつまを合わせるための理屈を作り出さなければならなくなる。その結果、前述のように首相を守るために公文書を書き換えるというような行為も出てくるのである。逆に首相の対応には問題があったなどと正論を主張すれば、つぶされてしまいかねない。こんな空気が官僚機構の中に広がっているのだ。

長期政権のもとで広がる「忖度」

むろん、多くの官僚が私欲を捨ててまじめに仕事をしていることは事実である。桜を見る会についても、複数の中央省庁幹部が、官庁に割り振られた招待者の推薦名簿については、「OBで叙勲などを受けた人を対象に厳格に選んでいる。恣意的に招待するなどということはありえない」と話してくれた。しかし、首相官邸主導の下で物事が決められていく中、官僚の行動様式に変化が生まれていることも事実である。

政界も同じである。政治資金をめぐる問題で辞任した菅原一秀前経済産業相や河井克行前法相とその妻の参院議員は、結局、国会開会中には姿を現さないままに終わった。彼らも何の説明もする気がないようだ。時間が経てばほとぼりが冷めるとでも思っているのであろう。

悪い冗談のような話だが、安倍首相は2018年4月、国家公務員合同初任研修の開講式で国家公務員になったばかりの若者を前に、「国民の信頼を得て負託に応えるべく、高い倫理観の下、細心の心持ちで仕事に臨んでほしい」と訓示している。首相が言うように私益を追求するのではなく、公益の実現が使命である公務員や国会議員に、倫理観は最低限、必要なものである。

ところが長期政権の下で、「首相に逆らうわけにはいかない」「いうことを聞いておけば守られる」という忖度の空気が広がれば、行政における恣意性が高まり、その結果、公平さ、公正さが損なわれ、不平等が生まれかねない。そうなると官僚機構のみならず統治システム全体に対する国民の不信感が拡大していく。そして、一度壊れた倫理観を修復することは容易ではない。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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