心を開かない「元野良犬」を迎えた家族の大決断 熊本の山からきたギーと家族になるまで
ギーをわが家に迎え入れることを決め、飼い始めて1カ月後になっても、ギーは自分に名前が付けられていることもわかっていないようだった。
おやつをあげても、これは食べていいおやつなんだということもわかってなかったし、それどころか、決まった時間にご飯が出てくることにもピンときていない様子だった。呼んで振り向くようになったのも、おやつを欲しがるようになったのも、ここ最近である。
心を開くのは年単位かもしれないと言われた
保護犬猫団体のボランティアさんからは「心を開くのは年単位かもしれません」と、最初にちゃんと聞かせてもらった。ギーがいたシェルターは東京・渋谷の一軒家で、そこでもやっぱり、ギーはいちばん端っこにいたのだ。「でもかわいいんです。そういう子って絶対かわいいんです」と、シェルターの若い男性が続けた。優しくて一生懸命な声だと思った。
シェルター(保護団体・保護主)によるけれど、ギーのいた所も先住犬のオカメがいた所も、飼い主との相性を大切にしてくれる。
オカメのときは「初心者でも難しくない性格の犬」にふわりと導いてくれたし、ギーのときは「い、いいんですか?! 懐くの時間かかりますよ?!」と心配してくれた。いいんですとカッコつけて答えたら、すごくうれしそうだった。
これもシェルターによるけれど、オカメのときもギーのときもトライアル期間があった。2週間、一緒に暮らしてみるのである。このトライアル期間、オカメは順調だったが、ギーはといえば、ちょっと違う。これは今だから言える話だ。
トライアル期間中の2週間、夫婦間の空気が重かったのだ。われわれにビビって、部屋の隅から身を起こさないギー。外に出れば風にビビり、車にビビり、杖をついたお年寄りにビビり、13キロの体をよじっていつでも脱走しようとするこの野良ちゃんを、私も夫も家族にできるか不安だったのである。
ビビっている犬の姿を見て、飼い主側もビビり始めてしまったのだ。「一生慣れなかったらどうしよう……」という言葉が喉から飛び出しかけた。それを言っちゃおしまいな気がした。
シェルターの男性は、「もし無理だと思ったら相談してください」と優しく言ってくれたけど、「む、む、む、無理じゃないはず!」と私は力んだ。
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