「入場料を取る書店」がまさかの大流行した理由 お客はいったい何にお金を払うのか?
ジュンク堂新宿店の最後のブックフェアが私たちに問いかけたことは、「書店の価値とは、本当に本をそろえて、売ることだけなのか?」ということだ。
書店の価値の本質は、「それまで知らなかった知識との偶然の出合い」である。知らなかった知識との偶然の出合いは、過去の購買履歴を基にしたネット販売のリコメンド機能では決して得られない。だから、私たちは書店に行くと知的好奇心がくすぐられ、どこかワクワクする。そして、本に囲まれた環境に居心地のよさを感じ、長居したくなる。
入場料を取る書店・文喫が目指したことは、まさにリアル書店への原点回帰なのだ。
これまで無料で提供していたことに価格を付ける
まったく別の業界でも、同じような事例はある。
私は、1980年代中頃に日本IBMに新卒で入社した。当時IBMの主力製品は、大企業向けの大型コンピューター。IBMのセールスはコンピューターを活用した経営変革を大企業に提案し、大型コンピューターを売っていた。この経営変革の提案は無料。IBMの対価は、1台十数億円の大型コンピューターの売り上げだった。
その後、コンピューターの価格性能比は年々向上し、価格も大幅に下がっていった。こうなると、コンピューター本体の売り上げだけでは、提案の対価を回収できない。
一方で、ITがさまざまな業務で広く活用されるようになっていくと、企業にとってITを活用した経営変革の提案の価値は大きく上がっていった。
そこで、IT活用による経営変革の提案に高い価格を付けて売るようにしたのが、経営コンサルティングである。今や東大生の人気就職先ランキングには、野村総研、ボストンコンサルティンググループ、マッキンゼー、アクセンチュアなどのコンサルティング会社がズラリと並ぶほどの人気業界になっている。
私たちは、販売活動そのものからは「お金を取れない」と頭から信じ込んでいる。しかし、この常識は疑うべきである。本来高い価値があるのに、売れる商品があるがゆえに、その価値をタダで提供している業界は少なくない。
例えば、出版業界の市場規模が大きく縮小したり、コンピューターの価格が大幅に下がったりというように、業界に大きな変化が起こった時は、価値を見直す大きなチャンスだ。
今まで販売活動のためにタダで提供していたものの価値を高めたうえで、価格を付けることで、本当にその価値を必要とする顧客が集まってくるのだ。
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