「中小企業の改革」を進めないと国が滅びるワケ アトキンソン「中国の属国になるシナリオも」

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その詳細については、この記事の後半で説明しますが、この中小企業改革は中小企業経営者からすれば、簡単に受け入れられるものではありません。現状にそれなりに満足をしている中小企業経営者からすれば、わが身を破滅に追い込むようなものであって、猛烈な反対が予想されます。

しかし、先ほども申し上げたように、これを先延ばしにすればするほど、未来の日本の傷口が広く、深いものになってしまいます。これまでのように360万社ある中小企業を手厚く保護して、彼ら全員に元気になってもらおうという従来の優遇・猶予政策では、残念ながら日本全体は沈んでいくのです。

そこで、ぜひとも日本の皆さんに、なぜ「中小企業改革」に取り組まないといけないのかを真剣に考えていただくため、もしこれに取り組まないとどのような最悪の未来が待っているのかということを考察した結果が、「中国の属国」なのです。

もちろん、これは中国が日本に攻め入ってきて、支配されたり、主権を奪われたりという話ではありません。改革をしないままで人口減少して、国力がすっかりと落ちてしまった日本に、さまざまな形で中国経済が関与をしてくるという「経済的属国」です。

その理屈は、次の通りです。社会保障負担がますます重くなる中、中小企業改革をしなければ、生産性は改善せず、国の財政がさらに悪化する。そのタイミングで、日本経済の特有なリスクである「首都直下型地震」か「南海トラフ地震」が起きたら、政府は復興のために海外に依存する必要があることを意味します。そのシナリオでは、中国に頼るシナリオが浮上します。

中国は今や購買力調整で世界第1位のGDPを誇り、アフリカなどに「援助」の名目で経済的な支配力を強めているという事実もあります。このシナリオは論理の飛躍などと笑い飛ばせるものではなく、もはやいつ起きてもおかしくないかなり逼迫したものだということは、この連載の最後にしっかりとご説明させていただきます。

生産性向上は痛みを伴います。大変な時代をもたらします。しかし、この最悪のシナリオを経済政策に結びつけているのは、決して机上の空論ではないことをご理解いただいたうえで、なぜ生産性向上の議論を命懸けで進めないといけないのかを痛感していただきたいからです。

中小企業改革=中小企業の統廃合

さて、タイトルの真意をご理解していただいたところで、今回は「中小企業改革」についてお話をしていきましょう。

そのように聞くと、ほとんどの人が、日本のものづくりなどを支えている中小企業の強みをどうやって生かすのかという改善策、日本の中小企業がこれまで以上に元気になるためにはどうするか、というような方向性の話を想像することでしょう。しかし私が申し上げているのはそういう類の改革ではありません。

人口減少という未曾有の危機に直面した日本が、この窮地を抜け出すためには、およそ360万社ある中小企業をどうすればいいのか。これまでよしとされてきた中小企業を中心とした産業構造がはたして今の日本に適しているのか。つまり、中小企業そのものを根底から変えるという「中小企業改革」なのです。

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