中国・高速鉄道網建設の内幕、財務リスクを飛び越え走り出す

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 内需拡大の流れに鉄道部がうまく乗った感があるが、景気刺激策のために改めて作った計画はあまりないようだ。「絵に描いた」状態だった計画が一気にリアリティを持ちだした、というほうが実態に近いだろう。事業性が危ぶまれ財源のあてがなかった路線にも、カネをつける大義名分ができたのだ。

京津都市間鉄道は壮大な計画のとば口にすぎないが、それでも200億元もの巨費を要した。毎年の利払いは7億元に達するとみられている。北京と天津を鉄道で行き来する乗客は年間1000万人程度といわれ、運賃が高い一等車(69元)に全員が乗ったとしても、収入はすべて利払いに消えてしまう。高速鉄道計画は夢のプロジェクトであると同時に、巨大な財務リスクも抱えているのである。

中国は1次エネルギーの7割を石炭に依存しており、貨物輸送の半分は石炭輸送に充てられている。石炭輸送専用線の建設も大きな課題だ。

だが、中国の鉄道整備は相対的に遅れている。人口1万人当たりの鉄道延長は0・6キロメートルで日本の3割、米国の1割以下。国土面積1000キロ平方メートル当たりでは8・1キロメートルで米国の3割、日本の1割強でしかない。総延長が世界2位の高速道路に比べ、大きく見劣りしている。

「データから判断すれば、鉄道部の膨大な投資計画もあながち過大とは言い切れない」と、日中鉄道友好推進協議会の岡田宏副会長(元国鉄技師長)は指摘する。

財源をめぐる争いが鉄道の発展を阻んだ

これまで鉄道整備の必要性が広く認識されていながら進まなかった大きな理由は、実は財源問題だった。高速道路などと違い地方政府が自ら経営に当たれるわけでなく、中央(鉄道部)が決めた計画にカネだけ出させられるというのが実態だった。

そのため、「地方政府がカネを出し渋って鉄道建設が止まったことが何度かある。中央の体制が変わらないかぎり、今後も起こりうる問題だ」(国家発展改革委員会の中堅幹部)。これには高速道路に比べて鉄道のファイナンスが難しかったという背景があるという。

「高速道路や空港なら地方政府が主体となって経営でき、建設対象を担保にしたプロジェクトファイナンスも組成できる。だが、鉄道の場合は鉄道部が管理する国有財産なので、それができない」(同)。

鉄道建設の財源は鉄道部所管の鉄道建設基金、中央政府の発行する鉄道債、さらに銀行融資だ。一方で地方政府は銀行融資以外に外部調達の手段がない。そのうえ鉄道部のコントロール下での稼ぎは限定的なので、どの地方政府も乗り気ではない。

財政を預かる発展改革委員会からすれば、鉄道部のコントロールを外せば地方政府のみならず、一般企業や外資も呼び込める。結果的に国庫から出す資金を絞れるし、ガバナンスの改善も期待できる。実際、石炭輸送専用線に関しては、すでに企業が敷設した例がある(前ページ図の黒い線)。

しかし、鉄道部は「政企不分」の体制を堅持している。「国家の大動脈」としての鉄道の運営を地方政府、民間や外資に委ねることはないというのが基本だ。この姿勢には発展改革委員会だけではなく、国務院レベルでも批判が高まった。その結果、昨年行われた省庁再編で鉄道部は交通運輸部と統合させられる予定だったが、鉄道部は総力を挙げてはね返した。

そして4兆元計画で、局面は大きく変わった。目下の至上命題は集中的な投資であり、それには鉄道部の「政企不分」の体制は都合がよい。鉄道部にとっては神風で、再編は今や棚上げ状態になった。

鉄道部の07年の鉄道関連収入は3300億元。同年末の負債総額は5626億元だが、現在建設中のプロジェクトが完成すると、負債は1・2兆元にまで膨らむ。そして、今後、その規模は雪だるま式に膨らむとみられる。鉄道部の姿に日本の国鉄を二重映しにする議論が、にわかに説得力を持ち始めた。

(週刊東洋経済)

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