伊藤忠商事が食品強化、中国食糧大手提携など布石《総合商社のポスト資源戦略》
食品ビジネスは不況にも耐性を持つ代表選手。総合商社は、穀物や畜産・水産など川上から、川中の食品卸、川下の小売りまで幅広く手掛けており、この厳しい環境下でも底堅い収益を確保している。
しかし、ここから利益を伸ばせるかどうかは別問題。海外での調達も大半は日本向けであり、その日本が少子高齢化で伸びが見込めない以上、海外市場攻略が不可欠となる。
「日本の加工食品市場は約18兆円。中国は100兆円もあるうえに、まだまだ成長する」と話すのは、田中茂治・伊藤忠商事常務食料カンパニープレジデント。伊藤忠は現在、山東省を中心に10カ所以上の食品工場を運営するが、いずれも対日供給基地だった。しかし、「これからは中国の国内マーケットを攻めていく」と宣言する。
すでに動きだしている。昨年11月、中国で食品事業を営む台湾系の頂新グループに7億ドル投資を決めた(今年5月までに出資完了)。20%出資の持ち分法適用会社として役員を派遣、経営にも関与していく。
頂新は、グループで食品、飲料、外食チェーン、コンビニなどを展開。特に、食品メーカーの康師傅はインスタントラーメンを年間約100億食販売する中国最大手。1社だけで日本の年間販売量の2倍近い規模を誇る。伊藤忠は頂新と2002年に包括提携を結び、日本の食品メーカーとの間で清涼飲料事業、野菜・果実飲料事業、製パン事業など複数の合弁事業を行ってきた。
中でも、04年にアサヒビールと伊藤忠が出資した康師傅飲品は、出資後3年で売り上げを3倍強に伸ばした。中国市場でトップだったお茶に加え飲料水でもシェアナンバーワンを獲得、コカ・コーラに続く清涼飲料メーカー2位に躍進した。パートナーのアサヒビールにとっても「海外事業で最も成功している」(北川亮一・国際営業企画部部長)会社だ。
今や日本企業の生命線を握る中国だが、流通網の構築や根強い反日感情などを考えると、単独での進出は難しい。「信頼できる現地パートナーが必要。商社にはパートナーの紹介を期待している」と北川氏は話す。商社側としては、仲介に当たり身元引受人として出資するのが基本だ。
中国食糧最大手と提携 「川上」事業拡大に足場
伊藤忠もこれまでは個別案件ごとに出資してきたが、「親元である頂新に伊藤忠が20%出資すれば、日本企業には安心してもらえる」(田中常務)。それに、新規案件の意思決定スピードも速まる。康師傅飲品のように、日本の技術を取り入れた結果、競争力が高まれば、伊藤忠の取り込み利益も拡大できる。
現状の頂新の純益は約100億円。それに対し伊藤忠の持ち分利益は20億円。キャッシュインが伴わない持ち分法利益であるため「7億ドルは高すぎる」(ある役員)との見方もある。2015年に持ち分利益を100億円にする第一目標をまずはクリアする必要がある。康師傅のパーム油や小麦粉の使用量は中国一。つまり、世界一の規模を持つ。今回の出資を通じて、川上の調達などに事業の広がりに期待を寄せる。
だが、頂新への出資は布石の一つにすぎない。昨年5月には中国の国有企業で食糧最大手の食糧貿易会社の中糧とも提携、原料供給での足掛かりも作った。当然、頂新とのシナジーも視野にある。対日輸出用の冷凍食品で提携関係にある、龍大の製品を頂新グループに流していくことも検討中だ。
伊藤忠の食料カンパニーの純益は現在約200億円。うち海外は2割しかない。「数年内に国内と同じ規模まで海外の利益を高めたい」(田中常務)。中国がその牽引役となる。
(週刊東洋経済)
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