山寺宏一「同業者から見ても凄い」圧倒的な実力 銭形警部から犬まで演じ分ける「七色の声」
「声優=いい声」というのも世間のイメージとしてはありそうです。しかし、「いい声」というのも漠然としていますね。私なんかが思ういい声は、大平透さん(ハクション大魔王などの声を担当)、若山弦蔵さん(ショーン・コネリーの吹き替えなどを担当)、野沢那智さん(アラン・ドロンなどの吹き替えを担当)とか、ダンディーでかっこいい、渋い人たちを想像します。
アニメ好きの女子たちなら、いわゆるイケメンボイスでしょうか。正直、「いい声」というのは主観であって、好みじゃないでしょうか。
ある程度は発声の仕方や口調でしょう。ぼそぼそとしゃべっていたら爽やかなキャラにはなりませんし、せわしなく早口だったらクールな大人という印象になりません。声質に特徴があったほうが声優としていいのかというと、これもなんとも言えません。
私の地声で言えば、「ストレートでふつうにいい声」だと思っていますが、まわりからすれば特徴的なようです。すぐに誰だかわかっちゃう。そんなものですから、ダブりの役をやることが少ないです。
ダブりというのは自分の役以外にもいくつか役を兼ねること。1つの作品で同時には出てこない脇役を2つ兼ねることもありますし、決まった役を持ちつつ、わざわざ専用のキャストを当てる必要のないほんのちょい役をその場でやることもあります。
よくあるのは「ガヤ」。絵にもなっていないようなその他大勢がいるときです。学校のクラスで休み時間に騒いでいるとか、事件や事故で野次馬が集まっている場面とか。
ガヤはレギュラーキャストみんなでやったり、ゲストや新人の人たちも参加しますが、そんなガヤでも私は「入んないで」なんて言われたりすることもあります。声ですぐわかっちゃうから。そういう意味では、個性が抑えられるのもある意味個性です。
山寺宏一のすごさ
話がそれましたが、いい声にはいい声の仕事もあるし、悪い声には悪い声の仕事がある。七色の声を駆使する先輩もいれば、1色の魅力でずっとやっている人もいます。
若本規夫さん(『ドラゴンボール』のセルなどを担当)なんかは、あの独特の口調が話題になり、あちこちものまねまでされるようになりました。どんどん誇張されていき、いまでは「若本節」があちらこちらの番組で炸裂するという類まれな例です。
一方で山寺宏一さんのように、クール、熱血、コメディー、さまざまな年齢の人物から動物までなんでもこなす声優がいます。それこそ役柄に合わせてどんな声でもつくることができます。天才です。しかも、ものすごく真面目に仕事に取り組むし、努力家でもあります。役者の鑑のような存在ですが、私なんかからすれば、もうお手上げだな、と思っちゃいます。
しかし、うまいという以上に、熱心に作品に取り組む姿勢こそが山寺さんが業界から一目置かれているゆえんでしょう。
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