「ファーウェイ禁輸」でなぜ台湾企業は笑うのか 中国から台湾へ受注シフトでメーカーに明暗

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半導体受託製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)も苦しい立場におかれている。すでに3ナノ製品の開発を具体化している世界最先端の半導体製造企業で、最新のiPhoneにも使用されている7ナノ品を量産。クアルコムなど世界の半導体企業からも受注している。

台湾中部の新竹市にあるTSMCの研究開発センター(記者撮影)

同社はファーウェイの半導体設計会社ハイシリコンも主要顧客として抱えている。一連のファーウェイ禁輸措置を受けて、同社は禁輸対象の製品はないとしてファーウェイへの供給を続けると発表。現時点ではファーウェイからの発注に影響は出ておらず、業績への影響は未定とする。

しかし、TSMC関係者は「ファーウェイの体力が尽きて、受注が途絶えれば当然業績に影響は出る」と話す。そして、「ファーウェイへの制裁によって5Gの開発や普及が遅れれば、5Gの本格化で期待されていた半導体の新たな需要がなくなり、会社としての成長は下落するだろう」と危惧する。

日本企業の成長戦略に生じる狂い

日本企業の成長戦略にも狂いが生じている。半導体製造装置の東京エレクトロンが5月28日に開いた中期経営計画の説明会で、2025年3月期までに最大2兆円を目指すと表明した。従来は2021年3月期に最大1兆7000億円の売上高を目指していたため、実質的な目標先送りとなる。背景にはファーウェイ向け半導体の需要減少による製造装置の受注減があるとみられる。

ファーウェイ向けへの売上比率が高くない電子部品メーカーも楽観はできない。電子部品大手の村田製作所は2021年度に売上高2兆円(2018年度は1兆5750億円)を目指すとしている。成長の柱は電装化が進む自動車向け部品の拡大だが、同社が強みとするや通信機器向けの部品供給も含まれる。

特にメトロサークは高周波特性に優れ、高周波が使われる5G向けのスマホや通信機器に広く採用されると見込まれている。5Gの本格化は事業規模拡大のチャンスだが、5G技術をリードするファーウェイがアメリカの制裁を受け、5Gの普及が遅れる可能性がある。村田製作所の幹部は「今後3~5年の成長が鈍化する可能性は高い」とみている。

日系電子部品大手の役員は「ファーウェイの成長と同社が牽引する5G向けの拡大を当てにしていた」とし、経営計画の見直しは避けられないと話す。

5年~10年先を見据えれば、仮にファーウェイが立ち行かなくても、他社の通信設備や半導体が5G普及を牽引していくに違いない。ただ、ファーウェイ問題で目先の5G普及が停滞することは避けられそうもない。電子部品各社は現状の売り上げ規模を維持できたとしても、目先の成長は厳しくなっている。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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