中韓に加え米国も圧力、靖国参拝後の神経戦 強行された靖国参拝。今後支払う代償は小さくない

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やはり、日本企業の中国での活動が正常化するためには日中関係の安定が必要だ。そのためには、首脳会談の実現が欠かせない。今年の秋には北京でアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開かれる。日本の外務省内部では、この機会に日中首脳会談を実現させる、というのが一つの目標になっていた。だが、今回の靖国参拝によって、その先行きは不透明になっている。

朴大統領には“助け舟”

韓国はどうか。これまで「歴史認識」と「慰安婦問題」で安倍首相の姿勢に反発してきた朴大統領は、今回の靖国参拝にも強く反発している。7日から訪米中の尹炳世(ユンビョンセ)外相は、ケリー国務長官と会談後の記者会見で、「北東アジアで歴史問題が地域の和解と協力の妨げ」と、対日批判の常套句を口にした。

「朴大統領は今回の参拝で救われたのではないか」。日韓の外交関係者はそう推測する。これまでの姿勢を変え、「日本との首脳会談を実現するべき」という内外の圧力をかわすことができるためだ。

韓国内では、12年末の大統領選に情報機関である国家情報院が介入した問題で、朴政権の正統性を問う声が日増しに強まっている。公約の目玉だった経済再生もうまくいっていない。経済的な結び付きが強い日本とこのままの関係でよいのか、まずは韓国から歩み寄って日本と首脳会談をすべきではないかという意見は現在でも少なくない。ところが、靖国参拝はこうした声をかき消してしまった。

6日の新年記者会見で朴大統領は、歴史認識について言及した。「韓国側が安倍政権に望んでいるのは、『河野談話』『村山談話』の内容どおりに歴代政権の立場を継承すると明言する、ということだ」と、慶應義塾大学法学部の西野純也准教授は指摘する。

だが、目前には日韓関係をさらに冷却しかねない問題が横たわる。戦時中の朝鮮半島からの徴用工に対する賠償責任を問う裁判で、韓国最高裁判所の判決が近々出る予定だ。これまで日本企業への賠償責任を求める判決が出ている。これと同様の判決を最高裁が下した場合、日韓政府ともに難しい対応を迫られるのは間違いない。

日韓で、政権への支持状況や国内の懸案を見比べると、状況がよいのは日本のほうだ。そのため、「韓国側も、まずは日本から前向きな動きを見せてほしいと願っている」(西野准教授)が、現在の安倍首相を見るとそれはありえないという悲観論が韓国でも広がっている。

中国にしろ、韓国にしろ、関係打開のためには首脳同士の対話しかない。しかし、安倍首相にはそのためのアクションが見えない。「対話のドアはつねに開いている」と言うが、迎え入れるためにどうするかという提案がいっさいないのだ。それを欠いたままでの靖国神社参拝は、やはり大きな失策だろう。抜本的な軌道修正が必要だが、米国に強制されて初めてそれが実現するというのではあまりに情けない。

(=週刊東洋経済2014年1月18日号 核心リポート01)

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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