「252のケース」に見る、いい戦略・悪い戦略 日本企業の経営者の「戦略眼を鍛える」視点
私は経営者やマネジメント層に経営戦略をアドバイスすることを仕事にしている。日本企業の経営者や経営企画部の人たちが、私たちのようなコンサルタントに最も要求してくるのは、「他社事例を教えてほしい」ということだ。
日本企業ははるか昔にスタートアップ期を過ぎ、成熟期に入っている大企業も多い。彼らが意思決定をする際にとにかく知りたがっているのが、「他社はどうしているか」ということである。そう書くと、「他社事例を追いかけてイノベーションなど起きるわけがない」との批判がすぐに聞こえてきそうだが、それが現実である。
これが外資系のコンサルティング会社であれば、「グローバルなベストプラクティスを海外オフィスから提言する」ということで自分たちの提案を差別化し、高い報酬を正当化する。
とはいえ、他社は他社である。国内事例だろうが海外事例だろうが、規模も違えば文化も違う。何もかもが違うので、同じように自社に適用できるわけもない。他社事例は参考にはなるが、どこまでいっても参考なので、自社で自社なりの戦略を考え抜くべきである。
私自身は「物量」が質やクリエイティビティに転化すると考えるので、戦略立案の基礎として、当然に他社事例を数多く頭の引き出しにしまっておくべきだと考える。私のように戦略を売ることを生業にしているならなおさらである。
そういう視点で考えると、従来、他社事例はMBAコースの授業で使われるいわゆる「ケース」が手に入りやすく、知見を得るのに有用だったが、日系企業のよい事例は数が少なく、他社事例を探している企業の経営企画部がフラストレーションを抱えていることを散見した。
類書のない戦略の教科書
そんな中、三品和広著『経営戦略の実戦1 高収益事業の創り方』という本にたまたま出会った。
この本は、まず分厚い。700ページ弱の分量があり、その中に日本企業のケース、つまりは他社事例が100を優に超える分量で詰まっている。帯には「151の成功ケース、101の失敗ケースに学ぶ」とある。
またそのフォーマットも、「優良企業は何をしたか」という漠然とした基準ではなく、定量情報を重視し、各企業の戦略を同一フォーマットで並べている。このフォーマットの項目がユニークで、「立地」「構え」「その他」の3つに分けられている。
「立地」というのは、誰に何を売るか? であり、「構え」は出荷するものをいかに入手して顧客に届けるか? であり、その他に分類される「管理」はいかに品質、原価、納期を守るか?と定義されている。
これを、事業着手のタイミングで、先発、後発、遅発の3つに分けている。先発とは、他社に先駆けて市場を開いたケースであり、後発とは成長市場に打って出たケースであり、遅発とは成熟市場を攻めたケースである。
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