マニラで財布をすられたら余りにも大変だった 海外で盗難被害「自分は大丈夫」と思う人の盲点

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年配の警察官は続けて、

「そうそう本当のドロボーはコイツなんだ」

と言って、僕の対面に座っていた太った一般の女性を指差した。

「そんな、また冗談をー」

と答えると、

「いやコイツは本当にドロボーなんだよ」

と言ってニヤっと笑った。

「ええ!」と女性を見ると、苦笑していた。どうやら本当らしい。女性を見ると右手の中指がなかった。中指だけなくなる、というのはとても珍しいと思う。

漫画『ブラック・ジャック』に、凄腕のスリ師が指を詰められてしまうエピソードがあったが、そういうことなのだろうか? だとするとドロボーの世界も大変である。

女性のとなりに座ってる仏頂面の男性が被害者らしい。犯人と被害者を並べて座らせておくなんて……なんておおらかなんだろうと思った。

年配の警察官に、

「シャチョー、次に来るとき、カバンは前に持つんだぞ!」

とまたまた注意され、肩を組んで一緒に写真を撮った。そうこうしてるうちに、ポリスレポートが書き上がった。

警察官と記念撮影(撮影:木村 茂之)

レポートにサインをするとあっさりと開放され、そこからはトラブルなく日本に帰国することができた。

スリに合ったおかげでずいぶん旅行の予定が狂ってしまった。そもそもはかなり余裕のある旅の予定だったが、現金がないためかなり節約した旅になった。

また、ポリスレポートをもらうために、かなり長時間警察署に拘束されたので観光する時間は大幅に減った。

油断が招いた痛すぎる代償

そしてそれだけでは終わらない。日本に帰ってきてからは、いったんフィリピンからの電話で止めていた銀行のカードを復旧、免許証の再発行などで丸2日かかった。フィリピンからの国際電話で電話料金もかなりかかっているはずだ。

旅行の保険には入っていたのだが、決定的瞬間が防犯カメラに写っていなかったので(日傘で隠れていた)、『盗難』ではなく『紛失』の扱いになった。そのため保険が適用されるかどうか微妙である。

そもそも、僕が入っていた保険では現金は適応外だ。またルイヴィトンの財布は、適応内だが10年前に購入した物なので、領収書はとっくになくなっている。領収書がないと基本的には申請できない。結局、なくなったレンタルのポケットWi-Fiが保証されるのと、免許証の再発行料である3500円が保険でカバーされるだけだった。

スリ被害に合うと、楽しい旅が台無しになることを心から実感した。

これからは絶対に

「カバンは前に!!」

を実践したいと思う。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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