安倍首相、「トランプ氏をノーベル賞に」の波紋 ご機嫌取りか、それとも「有効な外交戦術」か

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安倍首相の推薦理由について、トランプ氏は「日本の領土を飛び越えるようなミサイルが発射されていたが、いまは突如として日本人は安心を実感しているからだ」と解説した。このトランプ発言に欧米メディアはすぐさま飛びついたが、トランプ氏に批判的とされる米有力紙はコラムの中で「本当に安倍首相は推薦したのか、トランプ氏が安倍氏と文在寅韓国大統領を混同しているのでは」と憶測するなど懐疑的な報道も目立った。

一方、安倍政権に批判的な朝日新聞は18日付けのコラム「天声人語」で、「ノーベル賞級のお追従」とのタイトルで「賢く断る手立てはなかったのか」「いかにも外聞が悪い」などと安倍首相の対応を非難した。

これに対し、首相支持派とされる産経新聞は20日付けのコラム「産経抄」で「(トランプ氏を)賞にふさわしいと考える人は多くないだろう」としたうえで、「(推薦を頼まれれば)日本の国益のために、同盟関係にある超大国の力を徹底的に利用するのは当然」と安倍首相を擁護してみせた。その上で、「天声人語」の「賢く断る手立て」に絡めて「どんな手立てがあるのか、ぜひ、教えて欲しい」と揶揄した。

米国追随か、対米自立外交か

ここにきて、日米関係は貿易交渉などで厳しさを増している。ただ、事務レベルでの交渉担当者は「日米両首脳の極めて親密な関係が、危機を防ぐ最大の武器」(経済産業省幹部)と強調する。一部メディアの「盲目的な米国追随」「トランプ氏のご機嫌取り」などの批判についても、政府側は「首相は自由貿易、パリ協定、イラン核合意など重要な外交案件でトランプ氏と違う立場を堅持しており、まさに対米自立外交だ」(官邸筋)と反論する。

今回の突然のトランプ発言に首相サイドは「4月1日だったら、みんなエイプリルフールだと思ったのだろうが…」と困惑を隠さない。ただ、自民党の外相経験者は「アメリカの大統領がどんな人物であろうと、日本の首相は個人的にも信頼関係構築に努力するのは当然。その延長線上でのノーベル賞推薦も有効な外交戦術ともいえる」と評価する。

15日の会見でトランプ氏は、「おそらく受賞しないだろうが、それで構わない」と笑顔で語ったとされる。「来年の大統領選をにらんだトランプ流の自己宣伝」(外務省幹部)というわけだ。アメリカの事情通の間でも「今年秋にノーベル平和賞を逃せば『ノーベル賞はフェイクだ』と言って、逆に支持者の喝采を浴びるのが狙い」との見方がもっぱらだ。

一方、今回の騒ぎについて、与党内では「日米の親密な関係の象徴でもあり、首相への注目度が上がれば、いろいろな批判も帳消しになる」と参院選などへの影響を懸念する声は少ない。さらに「ここでトランプ氏を推薦すれば、首相が日ロ平和条約交渉で合意にこぎ着けた時に、トランプ氏が平和賞の推薦人になってくれるはず」(細田派幹部)とのやや手前勝手な期待を口にする向きもある。

こうしてみると、今回のノーベル平和賞推薦騒動は「トランプ氏という異形のアメリカ大統領の自作自演の喜劇」(外務省幹部)ともいえる。このため自民党内でも「野党などが攻撃しても、国際社会における首相の存在感を際立たせるだけ」(長老)との見方も少なくない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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