「女子アナ」の役割と闘って得た本音の生き方 小島慶子さん「もうすぐ女子アナは絶滅する」

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2018年は、1つの節目になる年でした。4月に財務事務次官のセクハラ問題が報じられ、ニュース番組で女性アナたちが意見を述べました。テレビ朝日の小川彩佳さん、宇賀なつみさん、フジの山﨑夕貴さんなども頑張って意見を述べていました。

「モノ申す」女性アナの登場は時代の変化の表れ

これはとても勇気のいることです。エリート中のエリートの男性官僚がメディアで働く若い女性の告発で失脚し、告発した女性記者がネットなどでめちゃくちゃにたたかれました。そんなときに、彼女たち局アナは声を上げました。メディア組織の奥座敷で箱入り娘みたいに大事にされ、局の看板娘でもある女性アナは、いわば最も声を上げにくいところにいます。

セクハラは許せないとか会社の姿勢に疑義を呈する意見を述べても1つも得することはないのに、どうしても言わなくてはならないと思った女性アナが何人もいたのです。#MeTooのニュースも、NHKの鎌倉千秋さんが熱心に伝えていました。

おまえたちは男尊女卑の構造でむしろ特権を得てきただろう、と言いたくなるでしょう。そのとおりです。だからこそ、女性アナたちにはその屈辱感や忸怩たる思いと「この構造を変えなくては」という切実な思いがあるのだと思います。それを内部にいながら口にすることがどれほど勇気がいるか、私には痛いほどわかります。

女性であることだけでなく、サラリーマンであることがどれほど意見を言いにくい立場かを考えれば、皆さんも彼女たちの勇気が想像できるのではないでしょうか。しかも何千万人の目に触れるところで言うのですから。

あぁ、こういう時代が来たんだなって、とても心強く思います。女性アナにとって最もモノが言いにくいのがニュース番組です。そこでモノ申す女性アナが出てきたことに多くの人がエールを送りましたし、降板が決まったときに批判も起きました。テレビ局の感覚と世の中の感覚が違うことを示しているのではないでしょうか。

また、元NHKの有働由美子さんは「あさイチ」で新しい女性アナ像を作ったと思います。画面の華ではなく、リアルな女性としての存在感を打ち出して視聴者の共感を得ましたよね。

先日、フジの佐々木恭子さんと、女性アナウンサーは実に“不思議な”職業だけれど、ちょっとずつ変わってきているよねと、しみじみ語り合いました。最近は研修でもおバカキャラを狙うのはやめなさいと再三言うようになったそうです。「女子アナ」という言葉を作ったフジテレビがですよ(笑)。

女性を半人前扱いし、お飾りや素人的な役割を求める構造に、世間はいい加減飽きている。年齢も専門性も、もっと幅広く多様な女性がテレビ画面に登場すれば、共感が得られるのではないでしょうか。だって実際の世界はそうですから。女性はテレビで見るよりも、もっと複雑で意志的な存在ですよね──ここからメディアのなかの女性の役割が変わっていくといいな、と思います。(談)

水島 宏明 上智大学文学部教授

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みずしま ひろあき / Hiroaki Mizushima

1957年生まれ。東京大学卒業。札幌テレビ放送入社。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレク ターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授、2018年から現職。

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