ポルシェのスポーツカー重視戦略に見た思惑 大人気の新型SUV「マカン」に傾注はできない

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ポルシェ・エクスペリエンス・センターの存在はスポーツカーを手に入れる動機となりうる(写真:ポルシェ ジャパン)

最近のスポーツカーは高性能化が進んでいることもあり、なおのこと「スポーツカーを手に入れても、それらしく走らせる場所がない」という声は大きい。ポルシェ・エクスペリエンス・センターは、そうした不満に応え、スポーツカーの可能性を広げるものと言えるだろう。単にコースがあるだけではなく、インストラクターが常駐し、メインテナンスの心配もいらず、ホスピタリティーも充実していて、何よりポルシェのファンしかいない空間。言わばサロンの存在は、たとえばゴルフ、乗馬などのように週末の趣味としてのポルシェを所有する歓びを高めるものとなる。端的に言えば、スポーツカーを手に入れる動機となりうる。

場所は千葉県木更津市伊豆島。館山自動車道の木更津北IC至近で、東京湾アクアラインのおかげで都心からのアクセス性は抜群のこの場所に建設される世界8番目となる予定のポルシェ・エクスペリエンス・センターは、土地面積約44ヘクタールと何とロサンゼルスのそれをしのぐ規模になるという。

ポルシェ ジャパンの戦略と未来

ポルシェ ジャパンではさらに、2019年に5つの正規販売店を新たにオープンするなど拡販に向けての体制も着々と整備を進めている。SUVの販売を拡大するのはもちろん、そのために2ドアスポーツカーについても存分に楽しめる環境を整え、そして同様にファンを拡大していこうというわけだ。

正直に言えば筆者自身がかつては、日本でのポルシェの販売台数を追う戦略、あるいはSUV拡販の路線を懐疑的な目で見ていた。かつてのようにSUVはある程度、絞ってもいいのではないかとも思っていたが、しかしながら今はこの戦略にこそ未来があると考えている。

新型マカンの後ろ姿(写真:ポルシェ ジャパン)

年間約7000台を販売する日本は、現時点ではポルシェにとって全世界で6番目の市場に位置づけられる。この販売規模がより拡大すれば、日本の発言力は大きくなり、価格や装備の充実、納期の短縮などにつながり、またつねに供給が追いつかない限定販売のスポーツカーの割当などにも有利に働くかもしれない。そして何より、ポルシェ・エクスペリエンス・センターが開設されるようなうれしいことも起こりうるのだから。

2020年には初の電気自動車となる「タイカン」の導入も控えているなど、ポルシェ周辺にはダイナミックな話題があふれている。新型マカンを引き金に2019年もアグレッシブに攻めていきそうなポルシェ ジャパンの戦略に期待したい。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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