高級ブランドが続々「脱毛皮」宣言をする理由 毛皮に対する価値観は大きく変わった

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アクリル繊維の原料はアクリロニトリルで、石油や天然ガスから作られたプロピレンに、アンモニアと酸素を合成して作られたもの。ポリエステル繊維の原料は、テレフタル酸とエチレングリコールという2つの化学物質で、両方とも石油や天然ガスから作られている。

基本、石油由来のものだから生分解しないし、生産や洗浄の過程で、近年大きな問題になってきているマイクロプラスチックが発生する。マイクロプラスチックは洗濯機による家庭洗濯でも発生し、そのほとんどは下水処理施設のフィルターをすり抜け、最終的に海や川へ流れ込んでしまう。これはエコファーだけでなく、ほとんどすべての合繊衣料が抱える問題で、解決のメドは立っていない。

大事なのは「ちゃんと考えて」着ること

一方の毛皮は生分解されるし、当然マイクロプラスチック問題とは無縁である。動物倫理的な問題を除けば、エコな素材と言えないこともないが、現状の製造工程には大きな問題があると言わざるをえない。今後は、牛、豚、羊などの食肉副産物として使用される革を含め、アニマルライツ(動物の権利)の遵守と、トレーサビリティー(飼育、加工、製造の過程)の消費者への周知を徹底する必要があるだろう。

筆者自身は、リアルファーとエキゾチックレザーに関しては部分使いのものを含め、これまで数点を購入してきた。今後は、新品を積極的に購入することはないと思うが、購入してきたものはこれまで通り使うし、不要となったものはリユースサイトなどで販売し、必要な人に引き継いでもらう。また、古着に関しては、欲しいと思ったら買う。一度消費されたものは、長く使ったほうが命をいただいた動物への感謝が伝わると思うからだ。

世界的にも注目されているダブレットのファーコート(ダブレット提供)

食肉副産物のレザー製品に関しては、新品も買うし、これまで購入してきたものも使う。なるべく長く使えるものを選ぶが、不要になったものはリユースサイトで販売し、必要な人に引き継いでもらうようにしていきたい。

今年の冬は、いま世界で最も注目されている日本のブランド、ダブレットのファーコートを購入した。素材は高野口パイル産地のエコファーで、後ろにはハスキーの大きな顔がハンドペイントで描かれている。滑らかな肌触りで、リアルファーとは違った魅力があって、とても気に入っている。

リアルファーとエコファーの問題は、人の数だけ多様な価値観がある。アニマルライツ、トレーサビリティーの徹底は人類共通の課題として取り組むべきだが、何を選択するかは個人に委ねられるべきだろうし、他人に自分の価値観を押し付けるべきではないと思う。大事なのは、ちゃんと考えて着ることではないだろうか。

増田 海治郎 ファッションジャーナリスト

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ますだ かいじろう / Kaijiro Masuda

1972年埼玉県出身。神奈川大学卒業後、出版社、繊維業界紙などを経て、2013年にフリーランスのファッションジャーナリストとして独立。『GQ JAPAN』『MEN'S Precious』『LAST』『SWAG HOMMES』「毎日新聞」「FASHIONSNAP.COM」などに定期的に寄稿。年2回の海外メンズコレクション、東京コレクションの取材を欠かさず行っており、年間のファッションショーの取材本数は約250本。メンズとウィメンズの両方に精通しており、モード、クラシコ・イタリア、ストリート、アメカジ、古着までをカバーする守備範囲の広さは業界でも随一。仕事でもプライベートでも洋服に囲まれた毎日を送っている。著書に『『渋カジが、わたしを作った。』

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